2016年10月24日月曜日

時間の値段

 Amazonで古本を買って代金を郵便局で振り込んだのだが振り込み手数料がいらなかった。Amazonはすごいと思った。最近ちょくちょく古書を買う。図書館で借りて蔵書にしたいと思って出版社のリストを検索すると「絶版」になっていることが多いのでネット古書店のご厄介になるのだが良質のものが少なくないうえに安いので重宝している。しかしネット古書店では当然のように振り込み手数料がかかるからAmazonの無料に驚いたわけだ。ドローンの配送を考えたり、当日、いや三時間以内の配送を約束するAmazonプレミアムなどAmazonのネット通販は進化しつづけている。
 テレビショッピングのサービスもすごい。先日の電気シェーバーの売り出しでは販売価格自体は街の家電量販店と同じだったが「替刃」がついた。これが結構高くて五千円ほどする、それがタダなのだから「お買い得」だ。一年前に買ったばかりで今スグ必要じゃないが、もし五、六年も使っていたら間違いなく購入したに違いない。テレビショッピングはとにかく「おまけ」が「お得感」を与えてくれる。
 今年の夏の暑さは格別だったからスポーツドリンクが絶やせなかった。スーパーやドラッグストアへ行ってケース買いしたが自動車や自転車が必要だった。あと五年もしたらそれもままならなくなるに違いない。そうなったらどうしよう?そう考えたとき、そうだネットで買えばいいと思いついた。トイレットペーパーなど嵩張ったものが必要なときもそうすればよい。
 この二三年日用品をドラッグストアやホームセンターで買うことが多くなった。酒類の特売チラシがドラッグストアから出ることも少なくない。百貨店、スーパー、SC(ショッピングセンター)のすみ分けがボーダーレスになってそれにドラッグストアとホームセンター、家電量販店が加わって、更にコンビニもあるから…、勿論まちの商店街もとなると我々の購買行動の選択肢は30年前とは比較にならないほど多様になっている。
 
 もうひとつ考えなければならないのはこうした「モノ消費」以外に「コト消費」が増えたことだ。例えば美術館の特別展示―最近では「ルーブル展」など今までで一番の混雑で図録などのグッズ販売も豊富にあって併設のレストランで食事を楽しむ人が溢れていた。音楽会へ行く機会も増えたし講演会へも良く参加する。娘は「ドリカム」の追っかけで年間4、5回、うち2回ほどは東京か横浜の公演が入っているしエステやネイルも程好くたしなんでいる。勿論旅行にも年に何回かは出かける。マンションの若いお母さんの話を聞いていると、ネットで買い物を済ませて空いた時間を家族とお弁当持ちで公園で遊んだりママ友同士でランチをしているようだ。
 共働き世帯が増え働く女性は忙しくてぱんぱん、子育中はもっと大変で、限られた時間をいかに有効に使うかが消費行動に直結している様子がネット通販の盛況ぶりに現れている。お金を使わない節約から時間を有効に使うことが「節約」の意味になってきている現状をもっと理解する必要がある。金利ゼロのこのご時世にコンビニATMの利用手数料が平均年間3000円に達しており5000円の利用者も2割もいるという数字がこの間の事情を明らかにしている。
 
 企業はコスト削減ばかりに目が行って、コストをかけた商品開発、イノベーションへの取り組みが弱い。それが結果的に潜在成長率に悪影響を及ぼし、デフレを再生産している。また消費が不振な背景には賃上げが不十分なことが大きく影響している。企業は賃上げに消極的だが、しつこいデフレ状況を考えると、欧米型の成果主義よりもなだらかでも賃金上昇が続く方が望ましいとする国民性があって、それが一方的に否定されている風潮が将来不安をよび経済を萎縮させているのではないか。
 アベノミクスで一時はデフレ脱却かと思われたが尻すぼみで、今は格差拡大があからさまになって重苦しい閉塞感が漂っている。消費額自体はバブル期の1980年代後半とほぼ同じ水準であるにもかかわらず消費不振といわれるのは何故だろうか。「コト消費」が「モノ消費」と同じくらいの消費量になっている今、モノを買うことには実感が伴うが、サービスはその瞬間に消費されるからなかなか実感として残らないことが影響しているのかもしれない。しかし時代はもう消費を物販主体の小売業の数字だけで判断できなくなっている。にもかかわらず政府や日銀が政策判断する「経済統計」は依然として物販主体の「商業統計」や、ネット経済とは距離のある対象者と集計方法に基づく「家計調査」がベースになっている。消費統計などの経済統計体系が実体経済と乖離しているのではないかという批判が経済学者やジャーナリズムに強いのはこうした現状を突いているのであろう。
 このような統計の欠点を補う試みとして「東大日次物価指数」が注目される。これはスーパーマーケットのPOSシステム(スーパーのレジで商品の販売実績を記録するシステム)を通じて日本全国の約300店舗で販売される商品のそれぞれについて各店における日々の価格日々の販売数量を収集しそれを原データとして消費者物価を推計するものだが、即時性、速報性で従来統計より優れており今後の展開が注目される。
 ネット通販やサービス関連の統計を充実して実体を正確に反映する統計の整備が望まれる。
 
 IT――特にスマホが普及して世の中は一変した。にもかかわらず『世間を見る目』はそれに追いついていない。だから『世の中』が正しく掴めていない。個人個人の動きとそれを積み上げたはずの『全体』の間の隙間がドンドン拡がっている、「日銀のマイナス金利」って何?という風に。
 
 いずれにしろ我国をアングロサクソン型資本主義や金融理論の実験場にするのはもう勘弁して欲しい。
 
 
 

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