2016年10月31日月曜日

半ドン

 半日休み―午後から仕事の無いことを「半ドン」という。今どきこんな言葉は「死語」かもしれないが、もともとはオランダ語の日曜日を意味する「zondag」がドンタクと訛って休日や休業を意味するようになった。それが1876年に官公庁が土曜半休になった折に「半ドン」と呼ばれるようになり以降土曜日の半休を一般に「半ドン」と使うようになる。
 ここで問題にするのは官公庁が「半ドン」を就業形態として定着させると一般私企業も一斉に右に倣えして「土曜半休」を「半ドン」として採用したことだ。勿論最初は大企業だけだったろうがやがて中小企業もそれに倣うようになり週休二日制となるまで日本の就業形態として定着することになる。
 
 昨年今年と賃上げに政府が口出しするようになり、マスコミの批判にもかかわらず経団連をはじめ我国の経済界は一定の理解を示して政府の要望に応えベースアップなどの賃上げを行った。マスコミがいうように本来賃金交渉は労使の交渉にまかせられるべきであり政治的な圧力によって力関係が歪められるべきではない。しかし「半ドン」にみられるように「お上」になびく、というかおもねる気風が国民性としてあることは否めないしお上だけでなく外国の力―欧米先進国の評価にも極めて弱い一面がある。たとえば国内では全く評価されていなかった黒澤明の『羅生門』がアカデミー名誉賞(現・外国語映画賞)を得るや一挙に評価が高まり、黒澤の地位は一気に上って以降の作品製作に無理が利くようになったなどという例には枚挙に暇がない。
 賃上げへの政府介入についてももし海外のしかるべき機関の後押しがあればマスコミの批判の矛先が弱まる可能性は極めて高いにもかかわらず6月20日に公表された「IMF対日審査報告」はほとんどニュースになっていないのは不思議きわまる。ひょっとしたら7月10日に控えた参院選挙への影響をかんがみたマスコミの自粛か政府の働きかけのせいではないかとかんぐりたくなる。なぜならこの報告はアベノミクスの失敗をはっきりと明言しており「アベノミクスは当初成功を収めた景気回復は失速した。高齢化や人口減で国内市場が縮小しているほか、賃上げが十分波及していない点問題、労働市場の改革と所得政策が重視されるべきだ」という内容になっているからだ。
 IMFがここでいう「所得政策」は本来の「物価安定のためにする賃上げ抑制」ではなくその反対の「賃上げで需要拡大と物価上昇を実現しよう」というもので、バブル崩壊以後物価上昇の範囲内の賃上げではデフレ脱却はできなかった20年の学習を経済政策に生かそうとする、まさに今政府が経済界に要望している内容に沿うものである。アベノミクス失敗の部分を忌避したいがための無視かも知れないがIMFの処方箋は的確であるだけに「外圧」に弱い国民性をよい意味で利用して政策に反映してもらいたいものだ。
 
 賃上げと併行して政府は「働き方改革」を推進しているが、有識者を集めてあれこれ難しい議論をするよりも、改革の根本にある『時間外労働―残業の削減(撤廃)』を『官公庁』が率先垂範すれば改革はスグにでも実現できる。「半ドン」で明らかなように我国の国民性は「お上」に弱いから少々無理でもお上がやればそれに倣うのは確実だ。それによって仕事の効率が上り予算のムダ遣いが減ったりすれば間違いなく日本から残業は姿を消すに違いない。慣習的な残業で無限定に行われていた諸々の仕事が必要なものとそうでない仕事の「選別」が行われ、必要な仕事が「新たな職務」として雇用を生み出す効果もある。
 
 2020年に「残業ゼロを目指す」日本電産が2017年3月期の連結純利益を1000億円に上方修正する決算見通しを発表した。永守社長は「「『モーレツ』はもうウチにはない」と語ると同時に、労働時間を減らして収益力を底上げするという方針を示し更にこう語る。「優秀な社員を採用できなかった時代はハードワークしかなかった」「今は優秀な社員が入ってくる。欧米はゼロが当たり前。もう時代が違う」。昨年から残業削減―定時退社を推進してきた同社は、残業削減による4~9月期のコスト削減効果は10億円に上るという。これは単純に来年三月期の1000億円の連結純利益の1%に相当する。定時になると『早く帰れ』と言われる若い社員は「ムダな仕事が理由の残業は認められないので、どう仕事の効率を上げるか必死で考えるようになった」と語っている。会議時間の短縮、会議用資料を減らすことによる残業削減効果など業務の生産性を落とさずに残業を3割減らすことができたという。
 
 日本電産が永守社長のトップダウンで残業削減に取り組み実績を上げたように、安倍首相が決断すれば『日本の官公庁の残業ゼロ』は間違いなく達成できる。予算編成時の財務省主計局などの殺人的な残業をどうするのかという反発も予想されるが、『ビッグデータとAI』を活用すれば「資料作成時間の短縮」は必ず実現できる。彼ら日本でも有数の優秀な官僚が、公正で公平な最適予算の編成という最も重要な作業に集中できるから日本国の成長発展に資する素晴しい「予算」が編成できるに違いない。
 
 「お上」や「外圧」に弱い国民性は特殊かも知れない。恥ずかしいと考える人もいるかもしれない。しかしこれは我国の長い歴史から生まれたものだから今すぐどうこうできるものではない。欧米先進国では賃上げに政府が圧力をかけることなど論外かも知れないが、20年以上苦闘してもデフレ脱却ができないできたのだからここは素直にIMFの勧告に従って「逆所得政策」を取り入れてもよいのではないか。少子高齢化社会の問題を解決するためには「時間外労働―残業ゼロ」を実現して女性や高齢者また障害を持つ人たちの労働参加が必須であるならば政府が「旗フリ」をして実現できるのであればそうすればよいのではないか。日本には日本の事情があるのだからそれに合った方法でやるしかないではないか。
 
 「日本式」も捨てたものではない、と喜ぶ日が来る。そう信じている。
 

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