2017年10月9日月曜日

科学性欠く核ごみマップ

 9月26日の京都新聞に島村英紀・武蔵野学院大学特任教授の現論『科学性欠く核ごみマップ』」という記事が掲載されていた。非常に重大な警告を訴えているので概略を下に記す。
 
 地球物理学やプレートテクニクスが進歩して、日本は四つのプレートが衝突している世界でも珍しい場所だということが分かった。それゆえ、大地震も火山噴火も避けられず、活断層も多い。実際世界のM5を超える大地震の5分の1、陸上にある火山の7分の1が面積では世界の0.25%に過ぎない日本に集中している。
 その日本で原子力発電所を建設しようという計画が始まったのは1957年12月で、原子力委員会1975年までに700万キロワットの原子炉を稼働させる目標を発表した。だが当時の地球物理学の知見からは、福島の原発が日本の太平洋沿岸沖に太平洋プレートが押し寄せてきて巨大な海溝型地震が起きる可能性の高い場所にあることも、静岡県の中部電力浜岡原発の近くで南海トラフ地震という巨大な海溝型地震が起きることも知られていなかった。その結果2011年3月11日東日本大震災による東電福島第1原発の事故が起こってしまったのである。
 2017年7月28日経済産業省は核ごみの地層処分について「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する科学的特性マップ」を発表した。これによるとマグニチュード(M)8の地震が想定されている静岡県の静岡・清水地区が緑色(安全地帯)になっているなど、今まで大地震が起きたり、これから起きることが分かったりしている地域が「緑」とされているのだ。歴史文書には記載がないが近年の地質学的な調査から若狭湾など日本海側にも昔、大津波が来たことが分かりつつあるなど、沖合で起きる「海溝型地震」で大規模な津波に襲われないと保証できる沿岸地域は、地球物理学の観点からは日本のどこにもないのである。
 なぜこんな地球物理学の知見を無視したマップが「科学的」と称されて公表されたかと云えば、単に好ましい範囲の要件・基準として「陸上での長距離輸送は困難なことや、廃棄物が重量物であることから、海岸線から20キロを目安」にしているからにすぎない。その結果、日本全体の海岸線沿いの多くを緑色(安全地帯)が占めるという『無謀』な結果を招いたのである。
 今回の「科学的」と称する地図には、地球物理学の知見は入っていないのだろうかと疑わざるを得ない。『現在』の科学の知見から見て、取り返しのつかないことを始めてしまった日本の原発政策だが、まずはこれ以上、核のごみを増やすことだけは避けなければなるまい。(以上概略
 
 「3.11」は国民の原発に対する不信感を一挙に高め、核ごみ処分場の受入れについてもどの地方自治体も応募しなくなった。そこで政府は地層処分の安全性を国民にアピールしようと「科学的」と『擬装』して、またぞろ『安全神話』を植えつけようとしたのが今回の「核ごみマップ」である。今回の「科学的」の根拠は「地質学的条件」に準拠したとされ、適地とされたのは国土面積の約65%、適地を持つ市区町村は全体の8割超の約1500自治体に上るという『暴挙』である。しかし「核ごみの安全性」は地質学的条件のみで『保証』できるものではなく、地球物理学、歴史地理学など多方面から検討されるべきはずのものだ。
 そもそも政府や安倍首相は「我国の安全基準は世界一厳しい」と胸を張って云っているがとんでもない話で、上に書いたように我国の立地条件は『世界一不適切』な国土なのだから「世界一厳しい」のは当然で、他国と比較してどうのこうのではなく、我国土を地質学、地球物理学、歴史地理学などあらゆる知見を総動員して『我国独自』の「安全基準」を策定すべきなのだ。
 また「原子力発電機」自体も1970年代から90年ころまでに建設されたものだから非常に古く、第三世代を迎えている最新のものと比較すれば「構造的な安全性」に問題を抱えていると云わねばならず、まして建設から40年を経過したものの「再稼動」を認可するなど、我国原子力政策の「安全性」に対する姿勢は極めて疑わしいものがあると云わねばなるまい。
 
 かって経験したことのない異常な気象のもたらす過酷な自然条件、世界で頻発するテロ、北朝鮮の核ミサイル危機など我国の原子力発電をとりまく環境は前世紀とは比較にならないほど『危機的状況』に迫られている。南海トラフ地震に備えた「ハザードマップ」が公表されているが、何故か原発への影響は考慮されておらず、原発事故に起因する『危険度』はまた『想定外』と言い逃れする積もりのようだ。
 
 「3.11」を『想定外』とした我国原子力政策の『安全神話』は今また、「核ごみ処分」を『安全神話』で擬装して国民を『想定外』の危険にさらそうとしているのだろうか。

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