2018年3月5日月曜日

「働き方改革」の見方

 NHK総合テレビ「凄ワザ(月曜日午後10時25分)」の2月26日放送『AIvs人類3番勝負』は「働き方改革」を考える上で示唆に富む内容だった。A.ファッションコーディネート(FC)、B.タクシードライバー、C.俳句の三部門でAIと各分野のトップクラスが成果を競う内容で、Aでは30代男性、40代女性、20代女性のFCを大手デパートの第一線コーディネーターが、Bではキャリア20年以上のベテランドライバー、Cは大学生No1、主婦俳人、NHK俳句教室で4年手ほどきを受けたお笑い芸人の三人がそれぞれAIと対した。結果はAは2対1で、Bはドライバーが、Cでは三人とも人類が勝利した。しかしそれぞれ僅差で、もし平均的な能力の人間が相手なら「人類」が勝っていたかどうかは微妙なところだった。
 AI(人工知能)の進歩は今や侮れないレベルに達している。2040年頃には今ある仕事の半分近くがロボットやAIに置き換わるという予測は決して絵空事でない、と強く感じた。
 
 工場生産の成果は〈労働力(その仕事に携わる人間の数)×時間数〉に比例する。ところが営業マンの仕事やデザイナー、コピーライターなどの仕事は必ずしも〈時間数〉に〈仕事の結果=成果〉が連動していない場合が多い。事務作業は時間数に比例する仕事が多いが、〈企画〉や〈分析〉などの仕事は一部、あるいは相当部分〈時間数〉と独立したものがある。このような〈時間数〉に比例しない、独立した仕事は、業務遂行の手段や方法、時間配分等大幅に作業者の裁量にゆだねられている。
 裁量労働制はこうした「時間に比例しない」「作業者の裁量」が大きな仕事を対象として設定された「仕事の概念」である。ところが今国会で審議されている内容は仕事に要する「平均的な時間」の多寡を論争している。ナンセンスである。裁量労働制業務は、例えば任せられた仕事(データ分析に基づく時間外労働削減策の企画・立案)を、毎日6時間4日データを分析、解析して5日目に朝の9時から徹夜で翌朝の4時頃完成して納期に間に合わせられた、このような「仕事の仕方」が許される、そんな仕事がイメージされている。1日8時間労働の一般事務職と比べて、4日間は2時間勤務が少ないが5日目に10時間余計に仕事したことになるがそんな時間数に関係なく一定額が給与として支払われる制度が『裁量労働制』である。ただしこの場合これまでの一般的な職場では、毎日2、3時間の残業が通常的に行われていたことが多い。定時に仕事が片づいていてもサッと帰るのがはばかられ、それならとダラダラ仕事を引き延ばして毎日2、3時間の残業が定例化していて、そしてこのダラダラ残業を含んだ給料が支払われていた。このダラダラ残業代はおおよそ元の給料(基本給)の3割近くに相当する。従って、「裁量労働制」に移行する際にはこのダラダラ残業分を含んで給与を設定することが望まれる(労使の交渉に委ねられる)が、この部分を「切捨て」たり「値切ったり」して「給与設定」することが横行すると『残業させ放題労働制』と野党や世間の批判を浴びることになる。
 また「裁量労働制」は厳密な「同一労働同一賃金」制度を前提にしないと旨く機能しないことが予想される。この制度は「職務内容と範囲」の限定が厳密に行われて始めて成立する。ところがこれまでの我国の慣例では職務が「無限定」であることが普通だった。だから、担当業務が勤務時間内に効率的にこなせても「キミ、時間があるならコレもやっておいてよ」と担当外業務を振られる場合が多かった。「裁量労働制」ではこれを許してはならない。さらに〈時間外労働の上限規制〉〈勤務間インターバル制度〉も同時に導入することが重要だ。
 残業時間の多い少ないなどという的外れで不毛な論議を繰り返す愚行は切り上げて、早急に本格審議に入るべきだ。。
 
 今国会に提案される「働き方改革」関連法案(働き方改革実行会議決定29.3.28による)には〈同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善〉〈柔軟な働き方がしやすい環境整備…テレワーク、副業・兼業〉〈女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備〉〈病気の治療と仕事の両立〉〈子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労〉〈高齢者の就業促進〉〈外国人材の受入れ〉〈誰にでもチャンスのある教育環境の整備〉など現在労働市場が抱えている多くの問題を解決しようという意欲的な取り組みを展開している。そして〈雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援〉を円滑に行える流動性の高い労働市場を実現し〈賃金引上げと労働生産性向上〉を達成して『デフレ脱却』を目指そうとしている。冷静に検討すれば、そして労使に偏りのない立場で取り組めば、労働市場を根本的に改善できる優れた計画なのだがどうしてそこへ行き着かないのか。残念でならない。
 
 冒頭に述べたAIの進化に人間が対抗するにはAIに負けないくらい深く、広く仕事を追究する必要がある。仕事は「形式知」と「暗黙知」を駆使して実行されている。簡単にいえばマニュアル化され全社的に「共有」された「仕事の仕方」と「作業者の勘(カン)」に頼る「仕事の仕方」である。その両方をOJT(オンザ・ジョブ・トレーニング)――未熟者を熟練者が仕事を通じて教育するというのがこれまでの我国の標準的な教育訓練の方法だった。「カン」の部分を何とかマニュアル化して誰もが「共有」できるように「作業の標準化」が行われてきたが、「マニュアル化不可能な部分」も多く、熟練者が「意識していない部分」もあった。AIはそれを、ビッグデータで取り込み、プログラム化し、ディープラーニングで「自生化」している。人間がAIに負けないくらい「カン(暗黙知)の部分」を解明する努力を行い、なおかつ、「凄ワザ」でAIが及ばなかった、現場で、その時、お客様からジカに収集した『最新の情報』――まだデータ化されていない情報を収集する能力とそれを『現実化』する能力を練磨することがAIに勝つ方法である。
 それを実現するには「仕事が好き」で「職場が楽しい」のが最低条件だ。
 
 賃金を上げるためには生産性向上は必須の条件であり「AI化」は避けられないのが現実だ。人間はAIを利用する側に回らなければAIに使われてしまう。弁護士などの『士』のつく仕事やお役人の仕事が最も「AI化されやすい仕事」という見方もある。
 
 現状に安住していればいつの間にかAIに仕事を「乗っ取られる」、そんな時代に生きているのだということを肝に銘じる必要がある。時代はまったく「新しい局面」――『大変革の時代』なのだ。
 
 

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