2018年11月26日月曜日

日本には働きたい人がこんなにいる

 本題に入る前に大谷選手の新人王についてひとこと。
 今年の大リーグ、ア・リーグの新人王に大谷選手(24)が選ばれたことで大騒ぎしているが「ちょっと待てよ!」と云いたい。イチロー以来17年ぶりということもあるのだろうが、日本の超一流選手が大リーグとはいえ「新人王」になることがそんなに名誉なことなのだろうか。これまで新人王に選ばれた日本選手は野茂(27才)、佐々木(32)、イチロー(28)と三人いるがいずれの時も当然過ぎて、むしろ「日本の超一流選手を新人扱いするなど失礼な…」と冷淡且つ批判的だったように覚えている。年齢的なことはあるかもしれないし大谷がこれまでの三人と比べて完成された選手でないことも、発展途上の可能性に満ちた選手であることも三人とは異なっているうえにルックスもいいからアイドル的に若い人たちが騒ぐのは仕方ないとは思うものの何か違和感を覚える。この二十年で日本のプロ野球のレベルが低下したというのなら話は別だが事実はむしろ逆だと思っているだけにもう少し冷静なおとなの意見があってもいいのではなかろうか、せめて張本さんくらいは…。
 天邪鬼の年寄りの僻()がこととお笑いください。
 
 今日問題にするのは「入管難民法改正案」についてである。外国人入国・在留に関する許可要件や手続を緩和して5年間で最大約34万人の外国人を受け入れ「人手不足」解消を図ろうという主旨の改正案が国会で審議されているが根本的に論議が的を外れている。
 直近(2018年9月)の失業率と有効求人倍率は2.3%と1.64になっている。失業率は長期低下傾向にあり、逆に求人倍率は増加傾向にあることが如実に「人手不足」を表しているように思える。有効求人倍率というのは有効求職者数に対する有効求人数の比率のことで、簡単にいえば0.5より1.0のほうが就職しやすいわけで1.64ということは1人に1つ以上の求職先があることになる。この有効求人倍率が5年前には1.0近辺にあったことを考えるとこの5年の人手不足が急激であったことが分かる(ちなみに失業率は5年前3.7から3.8だった)。この数字だけを見ると「人手不足」が深刻化しているように見える。
 しかし視点を変えると160万人(2.3%の失業率に表れている失業者)の完全失業者がいることも厳然たる事実である。「完全失業者」とは「働きたい(求職活動をしている)けれども仕事がない人」のことで統計の都合上ハローワーク(公共職業安定所)以外で職探しをしている人は含まれていない。160万人のうちには高望み(高額の給料や能力に見合わない仕事を探している、など)をしている人やミスマッチ(望む仕事とある仕事がつり合っていない)な人も含まれているだろうが保育所不足による待機児童をかかえているママさん(パパさん)も計上されている。いろいろな事情を抱えた人たちではあるが160万人という数字は無視するには大きすぎる。拙速な審議でゴリ押しして法案を通して5年間で34万人の外国人労働者を受け入れるよりも身近な『日本人』が仕事が無くて困っているのだから彼らが仕事につきやすい環境を整える方が『政治』というものなのではなかろうか。
 
 しかし問題はこれだけに終わらない、もっと巨視的な検討が要る。
 一体わが国にはどれほどの「労働力人口」があるのだろうか。統計上の厳密な意味の「労働力人口」とは異なるが仕事が可能な人を算定してみよう。平成28年度の総人口は1億2639万3千人、14才以下人口は1578万人(総人口に対して12.5%)、65才以上人口は3459万1千人(27.4%)であるから15~64才人口7602万2千人(60.1%)である。70才以上人口は2437万人(19.3%)であるから15~69才人口8624万3千人になる。これから15~17才人口357万8千人と大学在学者数(287万4千人)を差し引くと65才以下約6900万人70才以下では約7900万人労働可能人口がいると云える。実際の就業者数は6440万人であるから最大460万人~1460万人の人が就業可能でありながら何らかの理由で仕事に就かないでいることになる。
 一方で統計的な非労働力人口(15才以上人口-就業者-完全失業者)のうち就業希望者は2013年平均で428万人であり、内訳を見ると女性が約315万人とおよそ4分の3を占めており、その女性の理由として最多のなのは「出産・育児のため」が105万人、次いで「適当な仕事がありそうにない(97万人)」、「健康上の理由(38万人)」、「介護・看護のため(16万人)」となっている。また「近くに仕事がありそうにない」は男女計で29万人になっており、多くの国民がこれらの理由で働きたくても働けない状況にある。これはいわゆる「M字カーブ(20~30才代女性の労働力人口比率の窪み)」と呼ばれている女性の就業率特性を表す傾向と合致している。
 
 ところで政府はどんな職種に外国人を就労させようとしているのだろうか。上記法案の「外国人労働者の業種別受け入れ見込み人数」でみてみると、最大人数で①介護業6万人②外食業5.3万人③建設業4万人④ビル清掃業3.7万人⑤農業3.65万人⑥飲食料品製造業3.4万人⑦宿泊業2.2万人⑧素形材産業2.15万人⑨漁業9千人などとなっている。業種の特徴に目を向けるといわゆる3K(危険、キツイ、キタナイ)業種と生産性の低い業種が主なようにうつる。これは「技能実習生の失踪事情」と符合している。2017年には7000人を超える実習生が失踪しているがその多くが想像を遥かに超える「低賃金」で働かされていた実態が明らかになっており、暴力を受けたり劣悪な寄宿生活を強いられたりと外国人労働者の受け入れ状態は余りにも酷い状況にあるようだ。こうした現状を詳細に把握し受け入れ条件を整えないまま外国人労働者を安易に受け入れたりすれば「国際問題」に発展しかねない可能性さえある。今の抜け穴だらけの政府案を拙速に通過させることは避けるのが賢明である。
 
 更に今の審議で見過ごされているのは「AIおよびロボット」による「人の労働への侵食」についてである。これについては先の「働き方改革に伴う裁量労働制の拡充」についての審議の際に検討されたばかりであるが、2040年頃には今ある仕事の内最大で半分はAIやロボットに置き換わっているという見通しさえあるのだがこのことが今の審議にはすっかり抜け落ちている。三大メガバンクが今後5年で3万人以上の人員削減策を打ち出しているほかに、最近では東西のNTTグループが今後7年の自然減で2割人員を減らすと表明している。またオムロンの子会社が駅での案内・警備ロボットの実証実験を開始するというような報道もあるようにAIとロボットによる仕事の合理化と仕事の置き換わりは着々と進行しており2040年問題は決して絵空事ではないのだ。
 
 400万人から1400万人の「労働力化可能人員」を現実の労働力にするためには保育施設の充実、低賃金(保育、介護など)の解消、生産性の向上などお金も時間も工夫も要るけれども、それが人手不足時代を乗り越えるための本道であり根本策である。それをないがしろにして取り敢えず「AI・ロボット化」が実現するまでの間安価で安易に導入できる「外国人受け入れ策」で時間稼ぎしようなどという魂胆は決して許されてはならない。
 
 最近の政治のあり方を見ていると、資本とアメリカの言いなりになっているような感じを強く受ける。明治維新百五十年を盛んに賞讃する安倍首相だがそれなら明治の人たちが何事によらず長期を見通した「100年の計」を構想した姿勢を学ぶべきではなかろうか。
 
 
 
 
 
 
 
 

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