2019年1月7日月曜日

新年に思うこと

 新年早々物騒なことをいうようですが「戦争は人類が生き延びていくための『ビルト・イン・スタビライザー』ではないか?」と、最近思うようになっているのです。ビルト・イン・スタビライザーというのは「自動安定化装置」とでも訳せばいいのでしょうか、もともとは経済用語で、好不況を調整するために仕組みとしてに経済に埋め込まれている景気安定システムのことで、不景気になったら中央銀行が市場に貨幣を投入して経済活動を活発にし景気が過熱すると金利を高くしてお金を借り難くし投資や消費を沈静化させるといった中央銀行の役割などがその代表的なものです。
 
 トマ・ピケティが『21世紀の資本』で喝破したように「資本収益率は経済成長率よりも高い」のであれば『格差』の存在は「常態」であり平和な時代が続けばつづくほど格差は拡大していくことになる。歴史を振り返ってみれば、格差が拡大して社会に不満が蓄積してどうにもならなくなると必ず「戦争」が起って蓄積されてきた富――国の資産や個人の財産がゼロになって一旦格差がチャラになり、平和が戻ってまた徐々に格差ができ、やがて不平等が我慢の限界をこえて、また戦争になり……。国内の場合は「内乱」になり、それは往々にして国と国との不平等に飛び火することが多く「戦争」に拡大した。そんなことを繰り返してきたのが人類の歴史であったのではないか。
 そうした歴史を教訓として「再分配」を社会システムとして取り入れたのが「福祉社会」だったし、国際的に築き上げたのが「国連」を中心とした「国際協調」システムであった。「累進課税」で金持ちや儲けている会社からは多くの税金を取りそれを恵まれない所得の低い人たちに「社会保障」として再分配する、それが福祉社会を支えるわが国の経済システム(税制)だった。
 こうしたシステムは高度経済成長とも相俟って着実に機能し、いわゆる『中間層』を幅広く生み出すことによって世界も羨む『高福祉社会』と『民主主義』を達成し国民の多くが『格差』を意識しない『総中流社会』を実現した。「ジャパン・アズ・ナッバーワン」といわれた時代でありバブル社会でもあった。
 ところがバブルがはじけた頃から社会の様相が一変する。バブル崩壊は1991(平成3)年から1993(平成5)年の期間を指すがこの間を挟んで所得税の最高税率は50%に、法人税は37.5%に低下している。期を同じくしてソ連が崩壊し(1991年12月末)アメリカ単独覇権が実現すると「グローバリゼーション」が一挙に加速した。社会主義の敗北は資本主義の『獣性』を野放図に解き放ち、グローバル化の名の下に平和の代償として有無を言わさず『格差』の受容が強いられた。
 ここで戦後わが国税率の変遷を辿ってみよう。終戦直後進駐軍がシャウプ勧告(1949、50年)によって富裕税を設定するなどわが国税制の根本的な改革を指示して平等化を図ろうとした。やがて占領体制が終わり独立国家となったその後の所得税の最高税率は1962(昭和37)年の75%を頂点として1984(昭和59)年70%、1987(昭和62)年60%、1989(平成元)年50%と順次低減し現在では45%に設定されている(平成に入って一時37%まで低減されたこともあったがその後40%に修正され現在に至っている)。法人税(基本税率)は1984(昭和59)年43.3%を頂点として漸次低減、現在(平成30年)は23.2%にまで低下している。
 格差拡大に追い討ちをかけたのが間接税=消費税の導入だった。1989(平成元)年税率3%でスタートした消費税は1997(平成9)年に5%、そして2014(平成26)年8%に増税され今年(2019年)10月には遂に10%にまで税率が高められることになる。間接税の逆累進性は導入当時から懸念されていたことだが、わが国労働市場の激変――不安定・低所得を強いられる非正規雇用の拡大は2017年2036万人、総労働人口の37.3%にも達し、平均給与(2016年)は172万円で正規雇用の487万円の35%に過ぎない――は低所得者に逆累進性をますます増幅して強いている。
 
 格差の拡大はわが国に限られた現象ではなく世界的な傾向でもあって「1%の富裕な層と99%のその他の層」を不満とした「ウォール街を占拠せよ!」というデモが2011年アメリカで起り、それを引き金とした格差に対する不満の爆発は「トランプ大統領の誕生」という「不幸な真実」をもたらした。第二次世界大戦の教訓をもとに営々として70年間に築かれた国連を中心とした「国際協調体制」はトランプによって僅か1年で全てが覆らされようとしているし、第一次世界大戦の悲惨を二度と繰り返さないというヨーロッパの覚悟が昇華された「EU―欧州連合」もイギリスの離脱によって風前の灯となっている。西欧列強の「野望」が引き裂いた「アフリカの矛盾」は『難民』となって旧大陸―ヨーロッパ諸国を『崩壊』の危機に陥れている。
 
 国内の格差、国家間の格差、先進国と後進国の格差――あらゆる格差が『臨界点』に近づき「戦争」が「絵空事」でなくなりつつある。今度もまた、人類は「戦争」という『愚行』によってしかこの『難局』を切り抜けることができないのか。
 
 妄想はさらにつづく。
 20世紀は「戦争の世紀」だった。その究極として「原爆」が生まれた。同じ原子力の平和利用として「原発」が発明され「安全でクリーン」な電力が人類永遠の繁栄をもたらすと期待された。しかしチェルノブイリと福島第一原子力発電所の大惨事は「人類の夢」が実は「悪夢」という『事実』であったことを突きつけることになる。
 21世紀は文字の発明、印刷機の発明に次ぐ文化大革命―「インターネットの世紀」になるといわれている。その発展系としてのAI(人工知能)は人類社会の成り立ちを根本から変化させるかも知れないことを予感させる。しかし「原発」が「トイレのないマンション」といわれたようにインターネットは「ハッキング(クラッキング)」―システムへの不法侵入と破壊行為―という『脆弱性』をいまだに克服できていない。昨年暮れのソフトバンクの通信障害はひとたびネット・インフラが破綻したときの現代社会のもろさを露呈したし、トランプ大統領の出現がもしロシアのサイバー攻撃によるものだとしたら民主主義の根幹が揺るがされたことになる。そんなものに人類社会の基礎が築かれているとしたら21世紀にうちに「人類の滅亡」という予期せざる惨事に見舞われることも覚悟しておく必要がある。
 
 世界で唯一の「被爆国」であり西欧列強以外ではじめて近代化に成功した「日本」。あらゆる意味で「技術的特異点」を迎えている21世紀の世界をリードできる資質と地位を有している「日本のかじ取り」を誰が担うのか。
 既存の政治家だけがその権利者とは限らない。
 
 
 
 

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