2019年9月16日月曜日

ポツンと一軒屋

 「ポツンと一軒屋」という番組がある(テレビ朝日系)。大嫌いな番組みで一度も見たことがない。見ていないのに何故嫌うのだと突っ込まれそうだが、歴史を少しでも知っている人なら日本中どこにでもポツンと一軒屋はあるのであってしかもそれはある意味で日本の歴史の「恥」的な部分であることが多く、もし住んでいる人が居れば触れられたくない「家」の歴史的背景があるにちがいないからだ。 
 徳川時代の三百年は完全なる地方分権でこの狭い国土を二百五十以上の藩に分割して統治していた。貨幣経済でなく米を中心にした現物経済だったから藩別に定められた米の取れ高「石高」によって藩の中央政権・徳川幕府への財政負担が定められていた。最も負担だったのは参勤交代でそれ以外にも江戸城などの維持管理や諸街道などのインフラ整備費用の分担も膨大なものであった。藩の石高に変動はなかったから公式石高以外の「新田開発」によっていかに余剰を生み出すかが諸藩の経済を潤す重要政策になっていた。しかし領地には限りがあるから一定以上の新田の開発は不可能でその後は地方特産品のイノベーション力が藩の発展を左右することになる。有名な「赤穂の塩」などは今もその名を止めている。
 山岳と急流な河川の多い日本の地勢を考えてみれば明らかなように新田開発は過酷な作業になることが普通だった。そのため本百姓ではなくその次男以下に多かった水呑といわれた小作人などが主にその任に当たったがそれにも限りがあるから藩によっては犯罪人を動員することも少なくなかった。
 もうひとつ当時は宗門人別改帖によって住民と土地が確定されており移動の自由は制限されていた。人別帖に洩れていたのは芸能民であったり賎民であったり時代劇に出てくるヤクザなどが主だったものだった。彼らは何かがあるとすぐに罪人扱いになるから新田開発に狩り出されることも多かったにちがいない。
 新田開発もそうだが領地管理も重要な仕事で領地の辺境は隣国との境界管理の意味からも重要な仕事であった。初めは何人かの集団(そのうちの何人かは過酷な仕事を負わされた罪人が交じっていたにちがいない)で任に当たっただろうがそれが世襲になって時代の変遷とともにはじめの機能が不用になったりして、忘れられたり見捨てれられたこともあったかもしれない。
 
 「ポツンと一軒屋」と聞いたとき、まず浮かんだのはこんな状況と人たちだった。実際の番組はどうなのかは見ていないから分からないが、好き好んでそんな不便で厳しい条件の場所に住居を構える人は居ないだろうからできればそっとしておいて欲しいだろうと忖度して、嫌いだ、見ないという選択肢をとった次第である。
 
 「ポツンと一軒屋」で忘れてならないのは国境を支えている「島嶼」に住む人たちだ。昨今の世界情勢から絶えず他国の無人島に目を光らせている国家は多く、竹島であり尖閣諸島は有名だが我々の知らない国境の島嶼は数多あることだろう。先祖代々の地であるから「家」制度が色濃く残っていた時代には有無を言わさず守られてきただろうが戦後70年経って核家族が当たり前の今の時代、地球温暖化などの環境破壊がここまで至ってくれば規模の小さな家族漁業で生計を立てることはほとんど不可能になっている今、産業も職業もない辺境の地に若者が留まりつづけることを望むのは無理な話である。ということは戦後スグには何百人という規模で学校があり商店に多くの商品が揃えられ定期船が日に何本も就航していた繁栄が、残された人が僅か数人、いや二人か三人になっている島も少なくないのではないかと想像すると恐ろしい気がする。当然年寄りであろうし跡継ぎはもういないにちがいない。しかしそれでも彼らが居住してくれることでいわゆる「実効支配」できているわけで、一人二人のために電気水道などのインフラは維持しなければならないし定期便もたとえ週1便でも就航させなければならない。予算がどれほど配分されているのか知らないが地方分権が進められている昨今、地方に負担が強いられている可能性は十分予想できる。しかしもし、彼らが島を離れたら我国の領土はそれだけ危ういのもになり他国の動静次第では防衛のために膨大な対策費用が必要になってくるのだから「防衛費」と考えて国の手厚い援助があってもしかるべきではなかろうか。。
 先日も台風13号と14号が洋上を北上し先島諸島には暴風警報が発せられていた。長年住み慣れた人たちだからこそ過酷な気象状況に対応できているのであってそれがいつまでつづくかは保証のかぎりでない。
 
 そこで『国家防衛隊』を創設してはどうだろうか。海山に限らず人口の都市集中化の影響で過疎化の進行は危機的状況に達しており、「過疎地域の人口は全国の8.6%を占めるに過ぎないが、市町村数では半数近く、面積では国土の割弱を占めている総務省「過疎対策の現況」」。こうした現状を放置しておいた結果として北海道などの原生林を外国資本の蹂躙にまかせてしまって、そこにある水源地の権利問題が起り将来の「水不足」に甚大な影響を及ぼすのではないかと懸念されている。一方AIやロボットの採用によって今人間のしている仕事の多くがロボットに置き換わり今ある職業の3割から5割が消え去ると予想されている(オックスフォード大学マイケル・オズボーン氏の予測)。もしそうなら失業問題は国を支える若年労働者にとって最重要課題になってくる。また国土の荒廃は地球温暖化問題とも強くリンクしている。
 領土防衛、国土保全、水資源の確保、若年労働者の雇用問題。これらの総合対策として『国土保全』は重要且つ有効な対応策となる。若者が誇りを持って挑める仕事であり、AIを活用して僻地でも子どもの教育に支障がなく、所得保障も十分で、ローテーション、現地勤務以外の職務にも配慮した――そんな、一時しのぎでない国家百年の大計としての構想を若者が中心になって作成して欲しい。
 
 国土防衛隊については以前から折りに触れ考えてきたが、最近五島列島のある離島に取り残された老婆を描いた『飛ひぞく族(村田喜代子/文藝春秋)』を読んで一挙に現実味を感じた。小説としても優れた作品なので、特に高齢者にはお薦めしたい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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