2019年9月9日月曜日

消費税は不公平な税金である


 消費税増税直前。ここで改めて消費税について、我が国の税制について考えてみたい。
 
 消費税の不公平性については一般に「逆進性」がいわれることが多い。すなわち税金というものは所得の高い人ほど多く負担すべきであるにもかかわらず消費税は逆に所得の低い人ほど負担が多くなるから不公平だという考え方である。生活必需品――食費であったり水道光熱費などは品質に差があっても大体同程度の支出になるはずで、たとえば6万円だったとすればそれにかかる消費税は10%で6千円で収入が15万円の人と50万円の人では収入に占める割合は4%と1.2%になって明らかに所得の低い人の方が「重税感」は強い。社会保障費の膨張は確実だから消費税は更に高くなる可能性は強くこの「不公平」は今後重要な問題になってくる。
 
 しかし「不公平」についてはもっと重要な論点が見過ごされている。それは「企業は消費税を負担していない」ということだ。そんなことはない企業も仕入れには消費税がついてくるし支払っているという反論があるにちがいない。しかしよく考えてみてほしい。80万円の仕入れで100万円の自動車を製造しているT社の場合、T自動車会社は100万円の消費税10万円を消費者から徴収してそれを納税する。仕入れに係わる消費税、80万円の10%8万円は車の販売消費税10万円に完全に転嫁できている、ということはT自動車は一銭も消費税の負担をしていないことが分かる。しかしこれが小企業になると事情が変わってくる。仕入れ費用にかかっている消費税を自社製品を購入してくれる大企業に全額転嫁して販売することが不可能なこともあるし、もしできたとしても全額ではなく何割かの転嫁に抑え付けれることもあるにちがいない。いずれにしても理屈からは企業は消費税を消費者に転嫁することができるから消費税の負担はないといえるのだ。
 
 消費税の逆進性は不公平には違いないが「負担」という観点からは企業の負担がない税制であるという方がより重大な問題点であることがもっと追求されるべきではなかろうか。
 
 しかし税の問題はもっと根本的なところから考えてみる必要がある。今回の消費税増税は膨張する社会保障費の負担を国民みんなが公平に負担するという国民的合意があって増税されることになった。しかし今見たように個人ばかりが負担して企業が負担していないという事実が明らかになったように、この「個人」と「企業」という国の「構成員」という観点からみると負担の偏向による「不公平」はここ二十年ほどの間に劇的な変化を見せている。
 
 税金(国税+地方税)を個人の所得税、法人の所得税、消費税、相続税などの資産課税に分類して税収に占める割合を平成2年度と令和元年度で比較してみる。個人所得税は平成2年度37.8%→令和元年度31.3%▲3.5%/法人税30.4%→21.7%▲8.7%/消費税18.6%→33.4%+14.8%/資産課税等13.1%→13.6%+0.5%となっている。法人税以外を個人負担とすれば個人と企業の負担は約7対3から8対2に大きく変化している。資産課税は富裕層に係わるものとみなして所得税と消費税のみを個人税とみてこれと法人税の比較を試みると56.4対30.4から64.7対21.7、すなわち個人の負担が企業の1.855倍から約3倍(2.98)に増大しているのだ。しかも法人税の税率は現在が上限とみなされるのに対して消費税は今後益々上昇していくと予想されるからこの国の税負担はいよいよ個人に偏っていくであろうと考えて間違いない。
 
 さらに社会保障を社会保険料負担から考えてみると個人偏向の姿がより鮮明になってくる。
 まず厚生年金は現状の18.3%が負担率の上限とされているから、この半額を負担している企業の負担は今後増えることはない。しかも問題なのは厚生年金の保険料算出の「標準報酬月額(月収)」が62万円で頭打ちになっているので個人でみると富裕層ほど負担が軽いという偏りがある。これは健康保険についてもいえることで、標準報酬月額の上限が年収約1700万円で頭打ちになっており国民の約1%の富裕層は非常に恵まれた存在になっている。更に富裕層は資産課税でも――例えば株式配当課税などは分離課税になっているために上限の21.3%(所得税は最高税率が年収4000万円以上の45%)以上に増えることがないから富裕層がいかに恵まれているかは明らかだ。
 
 しかし、しかしである。どんなに企業の負担が軽かろうが、個人間の格差が酷かろうが、所得が増えておれば我慢できる、高度成長期はそうだったように。アベノミクスで安倍首相が自賛するように、企業が儲かれば必ず個人の所得が増えておれば許そうではないか。
 「実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100)」というOECD(経済協力開発機構)の資料は次のような数字を示している。
 1997(平成9)年を100として2016年の所得がどれほど増えているか(減っているか)。
 スウェーデン138.4、オーストラリア131.8、フランス126.4、ドイ.116.3ツ、アメリカ115.3、日本89.7 、日本は先進国で唯一1割以上も所得が減少しているのである。これは看過できない数字ではないか。
 
 消費税の導入は「直間比率の修正」「経済のサービス化に伴って奢侈品に偏った物品税―消費税を一般化する」「高齢化社会の財源を広く浅く確保しよう」という理由で導入された。直間比率の修正は間接税である消費税の比率が3割を超えたから相当修正されたといえる。高齢化の財源という意味では今回の増税も社会保障費以外にも流用されていることを考えると完全な「社会保障目的税」にするのが本道だろう。
 
 最も問題なのは国のかたちとして、企業と富裕層に恩恵が偏っている現状――結果として「格差拡大」という「社会の不安定要因」が増大していることだ。企業が儲かれば個人所得も増えるという「トリクルダウン」の考え方は通用しないことが明らかになったのだから、企業負担を増加させ、資産課税を「総合課税」に変更して、国民全員の公平な負担で国が成り立っている「かたち」にするべきなのだ。
 
 法人税を重くすれば、また個人課税の累進性を高めれば、企業と富裕層が海外に流出して国が貧しくなると「脅されて」きたが、それでいいではないか。本当の意味で「国を愛する」人と企業で「豊かな文化を享受する」――そんな国こそ我々が求めている「国のかたち」なのではなかろうか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿