2019年11月4日月曜日

安倍一強の弊害とトランプべったり

(先週とりあげた川上未映子氏の『夏物語』が「毎日出版文化賞2019」を受賞しました。長編ですが是非お読みください) 
 菅原経産相が辞任した。選挙違反につながる地元選挙民への寄付行為が常態化していた疑惑によるもので、当初は文春が暴露した十数年前のメロンやカニなどの贈答が問題視されていたので逃げ切れると思われていたが、今年十月にも秘書が香典を渡した事実が明らかになり事実上の更迭となった。
 この問題は二つの視点から糾弾せれるべきで、その第一は有権者がいまだにこんな寄付行為を受け入れていることだ。公職選挙法で議員の寄付行為が禁じられていることは有権者にも十分周知されているはずで応援している地元議員が違反を犯したらそれを戒めるのが望ましい有権者というものだろう。まして東京九区(練馬区)という大都市部の選挙区で起こったところになおさら情けなさを感じる。菅原氏は六期目の当選を誇る人だけに地元後援会の結束も固く長年応援してきた選挙民も多いはずで、長年の応援への返礼というような気持ちが強かったのだろうが、あえてそれを断り議員を戒める見識があって当然ではなかろうか。議員のレベルの劣化が明らかな昨今、有権者がそれを糺すくらいでないと政治の浄化実現は難しい。
 もうひとつは安倍総理の任命責任だ。第二次安倍政権発足以来これで閣僚の辞任は九人目だが、その都度総理は任命責任を口にしてきたが、口先だけの「お詫び」で、真相の究明、議員の処分、そして総理自身の実質的な責任の取り方は何ら示されずにきている。長くつづく安倍一強下だからこそこの程度で済んでいるが以前なら「内閣総辞職」があっても不思議でない不祥事の連続である。長期政権の驕りとゆるみを指摘されているが当然である。そもそも十数年前であろうと選挙違反を犯している(文春以外にも菅原氏の贈答疑惑は早くから報じられていた)議員を入閣させたのは当選回数の多い大臣待ち議員の在庫一層以外の何ものでもなく、たとえ辞任騒動が起っても頭のすげ替えで済むというタカをくくった政権上層部の驕りそのものの行為であり、政権を玩弄するの愚そのものである。
 これでは政治が正常に機能するはずもなく公務員の綱紀粛正の実現も望み薄でまさに長期政権の末期症状を呈している。
 
 現政権が受けるべき根本的な批判は「アメリカ・トランプ政権への盲従」である。アメリカは核兵器禁止条約も気候変動枠組条約にも参加していない。それにもかかわらずトランプ氏は米国とロシアの中距離核戦力(INF)廃棄条約失効を放置し、新戦略兵器削減条約(新START)延長にも消極的である。こんな状況下で日本が1994年から25年連続国連で提出し裁決されてきた「核廃絶決議案」から「核使用による壊滅的な人道上の結末への深い懸念」という文言を削除してトランプ氏の方向性に追従を示した。
 わが国は世界で唯一の被爆国として、核軍縮をめぐる保有国と非保有国の「橋渡し役」をはたすべきであるにもかかわらず安倍政権は一貫してその役割から逃げ腰姿勢をとっている。アメリカ一強が弱体化し核保有国間の勢力図がゆらぎ「核の暴発」の危険性が現実味を帯びてくるなか、今こそわが国が「世界の知性」として機能すべきなのに、むしろ「核の傘」のもとの「安全」を享受して「空いばり」するばかりですましている現状は、被爆までして先輩たちが手に入れてくれた『平和の重み』をないがしろにしていると叱責を受けても致し方あるまい。止まるところのない「国難」ともいべき財政悪化のもとで、防衛費だけは突出して膨張をつづけてきた安倍政権はトランプ・アメリカから数兆円の『兵器』を「いい値」で買い続けている。北朝鮮がステルス性を高めた核兵器をつぎつぎと開発・実験をすすめるなかで当初1基700億円といわれていたイージス・アショアを2基2500億円で強硬導入しようとしているなど税金の無駄遣いもはなはだしい仕業である。
 
 気候変動枠組条約に関してもトランプ追従姿勢が鮮明である。世界の二酸化炭素排出量に占める米中の割合は4割を超えているにもかかわらず両国とも条約に参加していない。先進国では唯一の不参加国であるアメリカは2018二酸化炭素CO2)排出量が前年比3・4%増になったと推計されている(米調査会社ロディウムグループ発表)。07年以来減少傾向にあったものが上昇に転じたことになる。トランプ氏は地球温暖化と二酸化炭素の関係に否定的な姿勢を貫いているから「シェール革命」によってアメリカが石油輸入国から輸出国へ転換しアメリカ歴代政権の課題であった「エネルギー自立」を達成したことになるから彼の手柄として選挙戦を有利に進める格好の「武器」と考えているにちがいない。貿易赤字解消を重要な公約としている彼にとってはいうまでもなく「追い風」で、軍備とエネルギーをテコにして今後ますます売り込みに精を出すことだろう。
 しかし米国本土を襲った大型のハリケーンは年々その数を増しており、異常乾燥による想像を絶する「山火事」も毎年のように被害をもたらしている。わが国でも「100年に一度」の台風による「想定外」の被害はここ数年全国を『破壊』している。こうした気象状況が二酸化炭素排出のもたらす地球温暖化と「無関係」であると主張するには無理があるのではないか。地球温暖化への対応は緊迫度を増しており今のまま放置しておくことは許されない情況に至っている。
 アメリカと中国の二大大国は軍備削減と地球温暖化に対して積極的に取組む重大な責任がある。
 
 アメリカの横暴はオリンピックでも目に余るものがあり、「東京2020」の暑さ対策をめぐる狂騒は今や亜熱帯化したわが国での8月開催という「暴挙」の当然の結果であって、アメリカ・テレビ局の国内事情優先の「ゴリ圧し」などもう許すべきではない。アメリカ覇権時代の終焉を告げる悪あがきは大概にしてほしい。
 
 それにしても安倍首相の異常とも思える「アメリカ・トランプへの盲従」は、彼の祖父に当たる岸信介(および大叔父佐藤栄作)の「CIAエージェント説」を思い浮かばせる。直接の引き金は2007年10月4日号の週刊文春「岸信介はアメリカCIAのエージェントだった!」だが、この記事はピューリッツァー賞の受賞経験もあるニューヨーク・タイムズ紙在籍のティム・ワイナー氏の著書「Legacy of Ashes ;The History of the CIA」(翻訳本「CIA秘録(上下巻)」文藝春秋社刊)によっており、この本は、20年以上もの歳月をかけ機密解除され一般公開された5万点にも及ぶ公文書や、CIAに関与した300人以上もの人物に直接インタビューするなどして編集されたもので、1次資料に基づく1次情報と言っても間違いないものである。これに岸元首相が児玉誉士夫とともにCIAエージェントとしてアメリカ主導の下に日本復興を画策したという記述がある。戦犯であった岸氏が解除後たちまちのうちに自民党のトップに上り詰め総理総裁に就任、アメリカの望む日米安全保障条約の「軍事同盟化」を期す安保改訂を強行採決させたその裏にCIAの「自民党への秘密献金」があったというティム・ワイナーの言葉にはリアリティがある。
 こうした政治的背景をもつ安倍首相だからアメリカとの不適切な関係を疑われても仕方のないほどアメリカべったりの「トランプ盲従」を示してもなんら不思議さを感じない。それほど軍事予算の突出した膨張と「言い値」の軍備購入は異常過ぎる。
 
 一国の代表が国民の福祉向上よりも同盟国の主産業――アメリカ軍事産業にあからさまの利益誘導する姿勢はあまりにも異常である。
 
 
 
 
 
 

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