2020年2月3日月曜日

すでに起こってしまった未来(2)

 経営学者ピーター・ドラッカーの「未来のことは予測できないけれども、すでに起こってしまった未来は見つけることはできる」という警告に従って、日本ですでに起こってしまった未来を見つける作業をつづけている。今週は何故日本経済は成長できないのかについて考えてみた。
Ⅱ. 日本経済の低成長の原因
 日本経済の低成長がもう30年近く続いている(1991年~2018年の平均成長率は1.0%に低迷している)。
アベノミクス(2012年12月)は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」の三本の矢を放ったがいまだにデフレ脱却すら果たしていない。いくつかの経済研究所も大学の教授たちもデフレ脱却、成長政策を模索したがこれという決め手がないまま「IR(統合型リゾート)」というバクチ場をこの狭い国土に3つも4つも造るというもっとも愚策を成長戦略の中心に据えてしまった。せいぜい2、3兆円の波及効果しかないこの政策で年間550兆円以上ある日本経済の成長戦略と呼んで平然としている政策担当者の神経が知れない。
 そこで浅学菲才を顧みず私の「日本経済低成長の原因」を明らかにしてみたい。
 信用創造の急激な収縮家計の利子所得の消滅、これが日本経済低成長の最大の原因だと考ている。企業投資不振の原因は金融機関の信用創造が機能していないこと、家計の消費が振るわないのは銀行や郵便局から得ていた「利子所得」がゼロになってしまったこと、GDPの二大構成要素の「投資」と「消費」がこれによって低迷していることから日本経済の成長が停滞している、これが私の考えである。
 
(1)家計の利子所得の消滅が消費を低迷させている
 
 簡単な方から述べてみよう。30年前、銀行に100万円預けておけば10年経ったら200万円になっていた。だから安心してバンバン欲しいものを買うことができた。大体一般のサラリーマン家庭は給料(残業代を含めた月給)で生活費を賄ってボーナスと銀行の利息で大きな買い物をした。最大の買い物は家だが自動車も家電も旅行も余所(よそ)行きの豪華なファッションもボーナスと利子所得をアテにして買っていた。それが2008年のリーマンショックを期にアメリカに倣ってゼロ金利政策が導入されて以降銀行預金、郵便貯金の利息は実質ゼロに張り付いたまま今日に至っている。もし利息がゼロになる前のままだったらどれほどの利息収入があったか、これを「逸失利益」というがある研究者(立命館大学高橋伸彰教授)の試算によれば、バブル崩壊後の1992年から2015年までの逸失利益は600兆円を超えるとしている。ざっと25兆円の収入が毎年失われてきた計算になる。2017年の雇用者報酬の総額が約260兆円だから1割近い収入が減ったことを意味している。消費者心理を考えてみれば今の収入より将来の安定(10年先にどれほど安定した収入が保証されているか)が購買意欲に大きな影響があることが分かるだろう。銀行利子がゼロとなれば頼りは給料しかないが、近年労働分配率は長期低迷傾向にあり特に大企業では60%近くにまで低下している。
 結局現在の日本のサラリーマンは月給ボーナスはあまり上がらない、銀行利子はゼロ、おまけに雇用は不安定、こんな状況に置かれていては消費が大きく伸びる可能性などほとんど考えられない。こうした傾向は1人当たりGDPの推移からも明らかで2000年38,500ドルの世界2位から2018年39,300ドルで26位にまで低下している。
 確かに企業の経営者の立場からすれば固定費である人件費は経営の足かせになるから給料は低く抑えたい、正規社員は少ない方が望ましいだろう。しかし国全体で考えてみれば雇用者報酬の低下となって消費に悪影響が出るであろうことは想像できるはずで、これはいわゆる経済学者の好きな「合成の誤謬」そのものだ。そもそも企業のレゾンデートル(存在理由)は成熟した資本主義のもとでは「雇用」の保証にあるのではないか。アメリカの中央銀行FRBが「物価の安定と雇用の最大化」を目的としているのがそれを裏づけている。バブル崩壊から30年、そろそろ日本の経営者も縮こまった「アニマルスピリット」のない経営姿勢から抜け出して挑戦的な経営方針に転換すべき時期に至っているのではなかろうか。大体日本では無借金経営が優良企業の証であるとするが、技術革新をするわけでもなく人件費を削って内部留保の蓄積に努めるだけなど経営者として失格だという外国の識者が少なくないことを知るべきであろう。
2020.2.03
経済政治 1875文字
737/527 市村 清英)
 

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