2020年4月6日月曜日

借りたものは返さねばならないのです

 新型ウイルスの蔓延が収まらず、志村けんさんの急死も重なって深刻度がいよいよ高まっている。当然経済への影響も甚大で倒産の危機に瀕している企業も少なくない。そこで政府も緊急経済対策を打ち出したが、相変わらずの「無利子無担保」の融資制度など旧来型の対策の列挙に留まっている。これは日本経済の実情を「自分の眼」で見ず、机の上で本や前例からの引き写しで政策を立てているからだ。
 
 借りたお金は返すのが常識だ。それは会社でも一緒だから返す「アテ」のないお金はどんなに利息が低くても――たとえ無利子でも借りることができない、というのは誠実な対応というものだ。そんなことは分かっている、でもこれまではこの措置で多くの企業が救われてきたではないかという役人がいたら、それは町の小さな食堂や居酒屋を営んでいる一般市民の実情がまったく分かっていない。
 都会の片隅で長い間一杯飲み屋をやってきて、息子も娘もかたづいて、あとは女房とふたりでご贔屓さんへのお礼の積りでのんびりやっていこう、こんな余裕のある経営者はめったに居ない。ほとんどの経営者はその日その日の稼ぎでなんとか回しているのが実状だろう。とすれば、せいぜい1ケ月か2ケ月保てばいい方でそれ以上に体力のあるサービス業――個人経営のサービス業の店などめったにあるものではない。そんな店が回転資金の融資を受ければその返済にどんなに苦しむかお役人は分かっているだろうか。
 
 分かりやすく話そう。カウンター席の定員が6人で4人掛けの椅子席が3つある居酒屋の場合、いっぱいいっぱい詰め込んでも20人が上限だろう。1日の回転数2.5回転で客単価が3千円とすれば15万円がつついっぱいの1日の売り上げになる。客席が一杯になることはないから客席稼働率を65%とすると1日の売上高は約10万円がいいところ、1ケ月20日営業日とすれば月間売上高は2百万円ということになる。居酒屋さんの原価率がどんなものか知らないが良心的なお店なら40%ということはないから45%とすると粗利益は110万円になる。家賃や人件費を考えると利益は20万円もあれば立派な方ではないか。
 素人の皮算用だからこれまでの計算にリアリティはない。言いたいことはサービス業の場合『増産』ができないということだ。月の売上高が二百万円のお店はどんなに頑張っても「二百万円」の売上しか上げられないのだ。
 一方製造業はそうではない。再開して残業残業で従業員を督励して労働時間を拡大すればその分増産できるわけで、大企業なら二交代三交代で二十四時間フル稼働も可能だし臨時工を雇えば増員も可能で、あらゆる手段を講じて経営者は『増産』を実現することだろう。融資を活用して工程や機械の改善や新規設備の導入を考える経営者もいるかもしれない。とにかく製造業は『増産』が可能だから返済計画も相当な実現可能性をもって作成できる。
 要するに企業支援対策としての融資制度が有効なのは主に製造業であって――それも大企業ほど使い勝手のいい制度で、その製造業はGDP(国内総生産)の二割に満たないということを役人は認識しているのだろうか。そしてサービス業は『増産』の利かない業種だと分かって政策を立案しているだろうか。こうしている間にも「カラ家賃」だけは払わなければならないと頭を悩ませている小さなお店の経営者がどれほどいるか分かっているだろうか。
 
 ではどうすればいいのか。国民の多くが恩恵を受けて不公平でない対策はどうあればいいのか。
 サラリーマン(勤労者)は賃金を得るために働く。会社が閉鎖されて働けなくなると収入が減るか無収入になるから生活が苦しくなる。その分を補償してほしいとサラリーマンは願っている。
 企業はどうだろうか。企業の存在理由はどこにあるのか。ひとの役に立つ商品(財)やサービスをつくりだしているから存在価値がある、というのは企業の一側面である。現在も中国からの商品や部品が滞って生産に支障の出ている企業がありマスクがないから困っている病院や個人がいることからもそれは理解できる。個人の生活という側面から考えると「雇用」主体としての企業の存在が重要になる。個人の生活を支える賃金を提供してくれる存在としての企業は我々にとっては根本的な存在価値と言っていい。しかし今の仕組み――「休業手当」「休業補償」「雇用調整助成金」など――を利用するとなると手続きが面倒で個人差が出ることもあり勤労者全てをカバーできない懸念もある。働くものとしてもっとも恐れるのは解雇や雇止めされて失業することだ。感染が拡大して出勤停止になったりロックダウン(都市封鎖)されても生活維持に足る賃金が支給されれば個人としては一応の安心は保障される。企業としては生産活動は阻害されるが社員の生活を支える賃金を企業負担ではなく国から保証されれば雇用の維持に努力するだろう。
 こうした考えにもとづいて一種の「ベーシックインカム」として一定金額を国民に支給することを考えてはどうか。これはあくまでも賃金の補償的な意味合いで支給するものだから労働力人口か生産年齢人口を対象として一律支給とする。7000万人~7500万人という厖大な対象者になるから1ケ月10万円としても7兆円から7.5兆円規模の対策費が必要になる。しかし今想定される緊急経済対策が30兆円とも60兆円とも巷間噂されていることを考えれば決して不可能な数字ではない。終息まで2ケ月かかるか3ケ月で足らないか予測不能だが3ケ月程度を目安に実施してはどうか。
 個人も企業も小規模事業者も分け隔てなく公平に恩恵が及んで最も効果があるのは、個人に直接支給してスグに自由に使えるかたちが最もいいのではないか。そして付帯条件として「雇用」を保証すること、解雇・雇止めを規制すること、これが重要な条件になる。(従って雇用に不安のない公務員――勿論特別公務員の政治家を含むのは言うまでもない――や公的年金の受給者は対象外にするのが妥当だろう)。
 
 予算をどこから持ってくるかが問題になってこうした計画はなかなか実現しないが、ひとつの資料として次期戦闘機F35A(B)105機を含む防衛省の「次期中期防衛力整備計画(2019~2023)」の規模は27兆円以上である。新型ウイルスとの戦いは「戦争」と位置づけている国も多いことを考えると防衛予算の流用は決してあり得ないことではない。
 
 これまでの企業寄りの対策だけではいま国民が抱いている『不安』を払拭することは不可能だ。国民のだれもが救われる「公平」で効果の高い対策が望まれる。
 
 

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