2020年5月4日月曜日

 競馬は記憶のゲームである

 
 オリンピックが延期になったりインターハイが中止になったりスポーツイベントが軒並みコロナ禍の被害を受けているなかで競馬はスケジュール通り粛々と開催されている。勿論無観客だが馬券はネットと電話で発売されていて前年比9割近い売り上げで健闘している。コロナ感染症拡大の折から不謹慎の(そし)りもあるやに思うが競馬ファンにはそれなりの言い分がある。まず感染防止に関しては、栗東と美浦のトレセンに競馬従事者が集団居住しているので来訪者の出入管理を密に行えば隔離に近い効果を期待できる。もうひとつJRA(日本中央競馬会)で走っているサラブレッドは「競争に特化して人工的に創造された品種」なので走りを止められると競走馬としての資質が損なわれてしまうのだ。今や春競馬たけなわで5月末のサラブレッドの祭典――ダービーを頂点に毎週GⅠレース(日本競馬の最高クラスのレースで春秋各13年間26レースが組まれている)が予定されていてそれぞれのレースに向かって緻密なスケジュールでベストコンディションで挑めるように調整されている。このスケジュールが期限のない延期や中止にされるとサラブレッドが「壊れて」しまう危険性がある。現在栗東と美浦に所属しているサラブレッドは8000頭を超えており世界でもトップクラスの優秀なサラブレッドを関係者が手を拱いて何もしないで開催中止に追い込まれて壊してしまうよりは、感染防止に最大限備えて開催する方が辛うじて社会的許容範囲にあるのではないか。競馬ファンの勝手な言い分と言われてしまえば一言もないが。
 こんな緊急事態の競馬開催のなかでちょっと気になる噂を聞いた。競馬の最重要プレーヤーに「馬主」がある。日本の競馬はヨーロッパからの輸入であったから最初から「公営」競馬できたが、もともとは馬主同士のステークスが発祥で、ステークスとは馬主が賞金を出し合って競争して勝ったものがその賞金を獲得するというもので、馬主中心で厩舎も騎手も馬主に付属するものだった。それが現代競馬となって――とりわけ戦後のわが国のJRAでは馬主・調教師(厩舎)・騎手の三者鼎立になった。ところが近年競走馬能力が伸長し平準化も進んで騎手の比重が大きくなり、外国人騎手の受け入れも重なって「騎手エージェント」が誕生、ここに至ってその存在感が高まっている。今回の緊急事態を受けてJRAは最少人数で開催する体制を取り馬主の競馬場入場を停止したにもかかわらず騎手エージェントは入場を許されているというのだ。もしこれが本当ならとんでもないことで一頭何千万円、なかには一億円以上という高価な投資を「趣味」でしてくれる「奇特」な馬主という存在があってはじめて競馬は成立するわけでJRAの公正な対応が望まれる。
 
 さて競馬の方だが無観客競馬の思わぬ影響が出ていてその顕著な例が先週の土曜日(4月24日)に起こった。一日に5個の「単勝万馬券」がでたのだ。単勝万馬券などというものはめったにでるものでなくて大体0.8%くらいの発生確率というデータがあるほどで1日に5個というのは前代未聞である。3連単の百万円馬券も4個あって異常といっていい。しかしこれには原因があってまず第一は「3場開催」である。3場開催とは東京地区関西地区と地方開催が重なることで馬と騎手が分散するから通常開催より実力にバラツキがでて勝ち馬検討が難しくなる。特に下級条件(未勝利、1勝クラス)にその傾向が強く24日も未勝利クラスで3個、1勝クラスで1個単勝万馬券がでた。
 さらに無観客のおかげで通常開催では大観客の歓声や騒音に怯えたり集中力を妨げられていた、臆病だったり繊細すぎる馬の弱点が取り除かれて実力が発揮できるという場合がある。今回も繊細な3才牝馬が2頭、3才牡馬が2頭万馬券を演出した。
 
 その土曜日に「福島牝馬ステークス」というGⅢ競争が組まれていた。このレースはGⅠヴィクトリアマイルという4才以上牝馬限定のマイル(1600m)戦の優先出走権を付与されるレースでここ10年で3連単が千円台で収まったのは1レースだけで十万円馬券が3年もある波乱含みのレースとなっている。今年も1番人気のエスポワールの単勝が2.8倍で10倍以下の人気馬が4頭もいて人気がばらけていた。いつも通りGレースの成績を第一検討項目に、近走8レースのステップ分析――特にGレース中心のデータを第二検討項目にして全馬をABCにランク付け、騎手、調教、レース展開で取捨を行った。こうした勝ち馬分析はここ5年ほど馬券購入をGⅠレースに限ってきた過程で案出したもので、競走馬の最終目標がGⅠレースの勝利にあるのだからそのために最適のステップを踏んで目標のレースに臨んでくる。従ってGⅠレースに出走したかどうか、そのためのGⅡ、GⅢでの成績が実力判断の重要な要素となってくる。
 以上の検討の結果、CランクにGⅠ実績だけの評価で16枠ランドネがあった。近走は目も当てられない不調が続いているが3ケ月の休養を挟んで出走してきた。ただ記憶では3才時のクラシック戦線で相当活躍していた様に覚えていてこのメンバーなら当時(2年前の3才時)は格上の存在だったはずだ。早速データを見るとオークスに出走していて紫苑S(G1秋華賞トライアル)で3着、本番の秋華賞でも6着に入っている。まちがいない、この馬の実力はこのレースのメンバーでは格上だ。調教を見てみると4F51.3、1F12.0の抜群のラップをだしている。休養を挟んで体調が一変している可能性がある。問題は騎手だ。西村敦也はまだ三年目で一般の重賞レースすら勝っていない。
 よし!このレースは「見るレース(馬券勝負でない)」だ。ランドネの単複を厚めに有力3頭への馬連を少々買ってランドネのレース振りを見てみよう。
 結果は3番人気のフェアリーポルカが勝って2着に人気薄(13人気)のリープフラウミルヒが入りランドネは3着(16頭中15人気)の大健闘を見せた。3連単228万8千円の大波乱、ランドネの複勝は2,940円の大穴となった。
 
 競馬は記憶のゲームである、とは言い古された格言であるが今でもこの格言は正しい。「2頭出しは人気薄(ランドネは1人気12着だったエスポワールと同厩の角居厩舎所属)」、「レース直前の蹄鉄打ち換え馬は好走(ランドネはレース前蹄鉄を打ち換えた)」などの格言も生きる結末だった。
 
 最後にコロナ禍下のパチンコ店開店と他地域からの大量遊興客について一言。彼らは「ギャンブル依存症」なのだということを理解すべきだ。大阪の吉村知事の彼らに対する厳しい対応は正しいが、それゆえに「大阪万博」の「カジノ解禁」には慎重に対処しなければならないことを知って欲しい。
 
 老いた昨今、記憶が怪しくなってきたが昔のことはよく覚えている。競馬は年寄りに最適のゲームかも知れない。
 

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