2020年7月6日月曜日

アメリカよ、よみがえれ!

 総務省が発表した5月の完全失業率は2.9%で前月より0.3ポイント上昇、完全失業者数も33万人増えて198万人に達したと伝えています。有効求人倍率は1.20で5ケ月連続低下しました。勿論統計に表れない非正規雇用の失業者も少なくないでしょうが有効求人倍率が1.20ということはひとりがハローワークに求職すれば1.2社の求人があるということですから選り好みさえしなければ職はあるわけで当座はしのげることになります。ほんの5、6年前までは1.0に満たなかったことを思えば大変な時代ですが日本の企業は雇用の維持に非常に努力してくれています。
 これをアメリカと比較してみるとその差は歴然としていて、4月の失業率は14.7%で1930年代の世界恐慌以来最悪の状態になっています。失業者数は約2050万人ですからけた違いです。アメリカという国は雇用の維持よりもとにかく企業収益の確保が第一で、働く人よりも株主の方が大事だという国です。このことはヨーロッパと比べてみても明らかで、イギリスの5月の失業率7.8%、失業者数(失業者向け手当の申請者数は85万6500人増)210万人、EUユーロ圏の4月の失業率は7.3%、失業者数21万1000人増の223万9000人、に止まっています(フランスは失業者数64.7万人、若者層失業率21.8%、イタリアは失業者数25.5万人若年層失業率20.3%)。
 
 アメリカの惨状は今回のコロナ禍の数字からもはっきりとうかがえます。わが国の6月末現在の累計感染者数は18,615人死亡者数972人。アメリカは268万人、死亡者数12.9万人。イギリスはそれぞれ31.3万人と4万3千人。いかにアメリカのコロナ被害が酷いかが分かります。アメリカのコロナ禍の惨状は99.9%の恵まれない人たちと0.1%の富裕層という極端な「格差」と健康保険などの社会保障の劣悪さが原因の脆弱な医療体制のもたらしたものであることは論を俟たないでしょう。
 いつのまにアメリカはこんな『夢のない国』に成り果てたのでしょうか。
 
 終戦直後、アメリカは輝いていました、私たちは憧れました。漫画『ブロンディ』に描かれたブロンディとダグウッドのアメリカの普通の人たちの生活は余りにも我々の生活とかけ離れていました。私の記憶に鮮明に残っているのは、電気掃除機と芝刈り機――なぜかローンモアと英語で覚えています――でなによりもブロンディの「かかあ天下」ぶりに驚かされました。昭和三十年ころといえばわが国はまだ家父長制が色濃く残っていて主婦たる妻は「三歩下がって…」というのが普通でしたから、家庭で主導権をふるうブロンディは輝いてみえました。ちょうど民主主義が盛んに吹聴されていましたから、にもかかわらず身近なところでは古い時代とほとんど変化していませんでした。そんな状況のなかで私が「アメリカの民主主義」を実感したのは『漫画ブロンディ』だったのです。
 今から思えば当時のアメリカは「製造業」の最盛期でGDP(国民総生産)が飛躍的に拡大して分配が国民に遍く行き渡っていましたから「中間層=中所得層」が人口構成の大部分を占めるようになっており、民主主義がもっとも機能していたにちがいありません。自動車とテレビや電気冷蔵庫などの耐久消費財の生産、高速道路をはじめとしたインフラ整備が年々成長し疲弊した世界のなかで「ひとり勝ち」を謳歌していた時代のアメリカを象徴していたのは「ハリウッド映画」でした。ジョン・ウェインの西部劇、エロール・フリンの剣戟ものにミュージカル、そしてなにより「天然色」の美しい華やかさに魅了されました。
 そのアメリカが変調を来したのはいつ頃からだったでしょうか。「ジャパンアズナンバーワン」と日本経済がもてはやされ、日米貿易交渉で繊維製品の貿易摩擦解消のために国内繊維製品の総量規制が厳しく行われ「織機の打ちこわし」が強行されました(この記憶が鮮明なのは実家が西陣で織機メーカーをしていて大打撃を受けたからです)。
 そんな強権的な国内製造業の保護政策にも関わらずアメリカの製造業の地盤沈下はおさまらず「ラストベルト(中西部地域と大西洋岸中部地域の一部)」として国の繁栄から取り残されることになります。製造業に代わってアメリカ経済を牽引したのは「金融業」と「軍需産業」と「情報産業」でした。製造業を支えた白人ブルーカラーに取って代わったのは「高学歴頭脳労働者」で、その結果「白人貧困層」が多く出て「中間層」がやせ細り、民主主義を正常に機能させる「穏健な保守層」と「リベルル層」が減少し、極右と極左に国が『分断』される可能性が高まります。そこにつけ込んだのが「トランプ大統領」だったのです。ラストベルトの白人貧困層や極右勢力を糾合し、分断を煽って自己の支持層拡大を図り大統領にまで上り詰めたのです。
 
 私たちのあこがれた「アメリカの民主主義と資本主義」は『幻想』だったのでしょうか。アメリカをお手本と仰いで追従してきた私たちは間違っていたのでしょうか。
 
 アメリカがイギリスに取って代わって「覇権国」となったのは第一次世界大戦と第二次世界大戦の間であり1929年から1939年の世界大不況が大きく影響したことは明らかです。しかし最も影響力が大きかったのはふたつの世界大戦で国土が「戦場」にならなかった『アドバンテージ』であることは疑いの余地がないでしょう。ヨーロッパもアジアも日本も壊滅的な被害をうけた中で唯一国土がまったく戦場にならなかったことの利益は絶大です。アメリカの資本主義がうまくいっているようにみえた多くの部分はひょっとしたら戦争で国土が破壊されなかったせいかもしれません。とすれば経済が好調で分配が国民に遍く行き渡ったおかげで中間層が育って「アメリカの民主主義」が機能していたのも戦争で国土が破壊されなかったアドバンテージのお陰といえないこともないのです。
 一方アメリカのノーベル賞受賞者は世界の国別受賞者数で群を抜いて多いのですがユダヤ人の比率も36%で世界の平均より15%近く多くなっています。これはナチスドイツの反ユダヤ主義からアメリカに逃れた多くのユダヤ人の力に頼るところが多いでしょう。
 戦後アメリカは覇権国として世界を牽引してきました。そんなアメリカをみて日本をはじめ世界の多くの国が「アメリカスタイル」に追随してきました。しかしそれはアメリカスタイルが原理的に優れていたからではなくいろんなアドバンテージが重なって表面的にうまくいっていたのかも知れません。それが証拠に戦争が75年なく、資本主義の暴走が戦争で「強制終了」されないと格差が拡大して国が分断される結果を招いているではありませんか。
 
 それでもトランプ大統領が黒人差別への抗議行動に軍隊を派遣しようとすると与党や政権内部からも反対意見が堂々と表明されるのをみるとやっぱりアメリカってスゴイなぁと思わされます。ここがアメリカの正念場です、民主主義と資本主義を時代に即したかたちに変革して再び世界を先導してほしい。中国やロシアのような独裁国家に世界が蹂躙されるのは絶対に避けねばなりません。やっぱりアメリカが頼りです。
 
 アメリカよ、よみがえれ!心からのエールです。
 
 
 
 
 
 
 
 

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