2021年11月1日月曜日

生活保護のパラドックス

  この時期に何故!と自民党の候補者はほぞを噛んでいるのではないでしょうか。この原稿は選挙の前に書いていますので結果は明らかになっていません、しかし自民党は大苦戦したと予想しています。なぜならOECDが各国賃金の2000年以降の推移をグラフ付きの統計で発表したからです。折れ線グラフですから一目瞭然、わが国の賃金が2000年以降横ばいがつづいて今や韓国よりも40万円も低くなって最低ランクになっているのです。安倍・菅政権のもとアベノミクスの実績を喧伝し、2001年の小泉内閣以降「規制改革」を成長の切り札の如くに煽りたてて「民営化」を推進、「働き方改革」で年功序列を破壊して非正規雇用が「働き方の多様性」の実現だと言い募ってきた、その結果がこれなのです。明らかに一枚のグラフが自民党政権の経済政策が『失敗』だったことを証明したのです。岸田さんが総裁選で「新しい資本主義」を提言したとき、これまでの自民党の経済政策を『転換』しようとしているのだと「期待」させたのですが、結局安倍さんや麻生さん、二階さんなど「重鎮」の影響で、富裕層優遇策の「金融資産課税」見直しなどが姿を消して従来と全く変わりないアベノミクスを継承することが明らかになった、そのタイミングでこのグラフが出たのです。こうなってはいくら自民党候補者が「分配」を説き「給料アップ」を訴えても市民はその『うそ』を見抜いてしまうのは間違いありません。これは自民党にとって大打撃です。

 一枚のグラフが「選挙を変えた」!そんな予感を抱きつつこの原稿を書いているのですが、さてどうなったでしょうか。

 

 20年以上の間給料が上がらずGDP(国内総生産)も成長せずに来ている状況は企業が人件費の抑制を続けてきた結果です。なぜそうなったのか、なぜそうならざるをえなかったのか、について考えてみようと思います。

 非正規雇用が全就業者に占める割合が40%にまで高まっています。これは2001年の23%と比べると異常な上昇度です。こんな状態を放置しておいてGDPが伸びない、給料が上がらないと言ってもそれは無理な相談というものです。非正規雇用―アルバイトや、期間社員、派遣社員に企業が配分する仕事は「代替可能性」の高いものがほとんどでしょう。短期間で覚えられる仕事、急な欠員があってもスグに充当のキク仕事が非正規社員の仕事になっているにちがいありませんがそうした仕事は大体「生産性」の低い仕事といってまちがっていないでしょう。2001年には約8割の人が生産性の高い仕事をしていたのが2020年には生産性の高い仕事をしている人が6割に減って(4割が生産性の低い仕事をやるようになって)いるのですから国全体として集計した就業者全体の(平均)給料が上がらないのも仕方ないとあきらめざるをえません。

 給料が上がらないもう一つの原因はいわゆる「労働分配率」の低下が上げられます。その分配率が2001年74.2%から2019年には70.2%まで下がっています(労働分配率は付加価値(売上高-外部購入費用)に占める人件費の割合)。この間サラリーマンの平均年収は447.8万円(2002年)から436.4万円(2019年)ですから約10万円減少しています。

 なぜ給料が下がったのかを別の視点から考えてみると3次産業(主としてサービス業)の全産業に占める割合が増加したことが上げられます。2001年が59%だったのが2018年には67%と8%以上増加していますが製造業に比べて三次産業の生産性は低い傾向にありますから全体としての平均給料が下がるのは当然の結果です。

 2001年から2020年にかけて給料が上がらなかったのは(1)非正規雇用が増加した(2)労働分配率が低下した(3)三次産業(主としてサービス業)の就業者数が増加した。おおまかにいってこの3つが原因で給料が上がらなかっとことが分かります。

 

 非正規雇用が増えたことについていろいろ分析がされていますが「労働生産性の劣化」という視点からの批判はあまりお目にかかりません。非正規雇用者が就業する仕事が生産性の低い代替可能性の高いものであり加えて短期の就労期間であることも一般的です。非正規雇用が増加するということは長期にわたって同じ職場で働きながらOJT(仕事をしながら上司などから知識技能の指導を受ける)などの研修を受けてキャリアップする機会が失われ生産性の低いままに放置される労働者が増えることになり、国全体で見れば労働生産性が劣化してしまうことは明らかです。 

 

 企業は固定費である人件費を削減するために非正規雇用を増加して利益の増大を図るのですが、そしてそれは現実化して短期の利益は向上し不景気になったときの耐性もアップしますが、そうした企業行動を国全体で総計してみると労働力の『劣化』を招いてしまうのです。個別の企業では賢明な策であった「非正規雇用の増加」が国全体では生産性の劣化につながっているという現状は、いわゆる『合成の誤謬』そのものです。

 年功序列制に代わって能力主義の成果主義を取り入れ人件費の流動費化を図ってグローバル化に耐える企業体質へ転換しました。その結果国全体としての「生産性」は相当劣化しています。GDPは停滞したままですし国民全体の「暮しやすさ」はかなり悪化しています。結果として「生活保護者」は増加の一途をたどっています。企業が良かれと思って導入した成果主義や非正規雇用の拡大が結果として国全体の生活保護費用を増加させたりコロナ禍で交付金や補助金の増加をもたらしたのです。

 バブルが破れリーマンショックにおそわれ、小泉改革やアベノミクスでグローバル化に耐える体質に「国のかたち」を変えようとしてきましたが、一枚のグラフを見れば明らかなようにその効果はなかったのです。

 

 国のかたちを変えるには「選挙」で政権交代を図るしかないのでしょうか。

 

 

 

 

 

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