2022年2月7日月曜日

ニュースの裏側

  『メディアの未来(ジャック・アタリ著)』という本が評判になっていて私も読んだのですが、文字情報からSNSに到る長い歴史が教えるのは「情報は独占と捏造とフェイク」の歴史であったということです。ネット情報の怪しさが取り沙汰される昨今ですがこれまでも決して「不偏不党の真実」だけが報道されてきたわけではないのです。日本は比較的、特に近現代のメディアは欧米先進国ほど資本の独占に犯される傾向は少なかったのですがそれでも戦前戦中の「大本営発表」を垂れ流し戦意高揚に協力した報道のあり方は大いに反省すべき禍根になっています。近年はSNS全盛になって情報の速報性も広告量の豊富さも既存メディア(新聞・テレビ・ラジオ)はネットのプラットフォーム(GAFAなど)より劣ってきて、その結果記者などメディアに携わる人材に以前ほど優秀な学生が集まらなくなっているようです。そのせいもあってか報道に鋭さが無くなってきたと感じるのは私だけでしょうか。

 

 最近の例で言えばアメリカの大統領にオバマ大統領の副大統領だったバイデン氏が就任したとき、私のように戦後のアメリカ政治を現在進行形で見てきた世代は一抹の不安を感じたのですがそうした報道は皆無で、とにかくトランプが負けたことの歓迎、祝福の記事に満ちていました。戦後アメリカ大統領で副大統領から昇格した人は3人――トルーマン(ルージベルトの副大統領)、ニクソン(アイゼンハワーの)、リンドン・ジョンソン(ケネディの)、そしてバイデンです。ジョンソンは可もなく不可もなしですがトルーマンは原爆投下の責任者ですしニクソンはウォーターゲート事件を起こしています。資質として大統領と副大統領では根本的に異質なものが要求されるのではないでしょうか、それはわが国の総理大臣にもいえるわけで、そんな経験からバイデン氏に一抹の不安を抱いたのです。これまでの彼の実績を評価すれば失敗とされる判断が少なくなかったし、中ロの「のさばり」、中東の混乱、北朝鮮の挑発など外交的にも手腕に疑問符が付くと言わざるを得ません。

 マスメディアの盲点のひとつがこうした「歴史的」な物の見方の弱さです。

 

 もうひとつの弱点は政府が打ち出す「政策」を「斜に構えて」批判する能力――時にはそうした姿勢が本質を見抜くこともあるのですが、最近はどうも真面目過ぎる記者が多いように感じます。最近でいえば「ガソリン高騰抑制策」です。軒並みつづく値上げ傾向の中心的なものとして「ガソリンなどの燃料油価格高騰」の抑制が物価対策として重要と考えて打ち出された施策ですが、これはどう見ても「石油元売り業者(と小売業者)補助金(支援策)」以外のなにもでもありません。それは事業の目的にも「(この事業は)価格を引き下げる制度ではありません」とうたってあるのです。しかし報道の仕方もあって一般消費者はガソリンスタンドの値段が下がるものと理解しています。そういった意味でこれほど分かりにくく、政策の費用対効果の不明瞭な施策は今までになかったのではないでしょうか。そのあたりを厳しくついたマスコミの報道がほとんどなかったことは残念です。

 案の定1月27日に初発動した3円70銭(/1ℓ)の補助金はスタンドの価格抑制には効果が薄く1月31日時点で前週調査と比べて70銭高い170円90銭だったと経産省が発表しました。そこで10日には補助額の上限5円を適用することになるようです。

 

 この制度の正式な名称は「(令和3年度補正予算事業)コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業」といい予算総額800億円が組まれています。「原油価格高騰が、コロナ下からの経済回復の重みになる事態を防ぐための激変緩和措置として、燃料油の卸売価格の抑制のための手当を行うことで、小売価格の急騰を抑制することにより、消費者の負担を低減することを目的としています」。そのうえで「消費者に直接補助金を支給する制度ではありません。また、小売価格の高騰を避けるための制度であり、価格を引き下げる制度ではありません」という注意書きがつけてあります(経産省HPから)。

 制度のあらましは「緩和措置期間中(3月31日まで)、全国平均ガソリン価格が1リットル170円以上になった場合、1リットルあたり5円を上限として、燃料油(ガソリン・重油・灯油・経由)元売りに補助金を支給します」となっていて「支給開始後4週間は170円、翌4週間は171円、翌々4週間は172円、さらにつぎの4週間は173円」と支給発動価格を段階的に引き上げていく設計になっています。

 この概要をまとめると「燃料油価格の高騰がコロナ下の経済回復の障害にならないように170円を超える小売価格の高騰分を元売り業者に補助金を支給して卸売価格を抑制し、小売価格高騰を抑制することで消費者負担を軽減する」という制度設計になっているにもかかわらず「小売価格の高騰を避けるための制度であって価格を引き下げる制度ではありません」という但し書きをつけているのです。「小売価格の高騰を避けるための制度でありながら、価格を引き下げる制度ではありません」という但し書きはまったく意味不明ですし、価格を引き下げないで一体どうして高騰を避けることができるのでしょうか。「消費者に直接補助金を支給する制度ではありません」ということをどうしても理解してもらうために、意味不明の但し書きをつけたのでしょうが、こうした矛盾をあからさまに「言い訳」しなければならないのはこの制度に「後ろめたさ」があるからなのでしょう。

 

 石油元売り業者は最大の需要層である自動車産業が燃費効率の改良、ハイブリット化電気自動車化が進んでガソリン需要の減少は既定の事実であり、環境問題が化石燃料離れを加速して経営環境が悪化しておりそれにどう対処するかは喫緊の課題となっています。経産省としても打開策を早急に打ち出す状況に追い込まれている折から、物価対策に名を借りて業界支援を図ることができれば願ったり叶ったりです。今回の燃料油高騰対策事業は紛れもなく石油元売り業界支援策に外ならずガソリンスタンドの給油価格の低下という消費者向けの物価対策として効果があるかどうかは経産省にとって二の次三の次なのです。マスコミはどうして「物価対策」の側面ばかりを伝えるのでしょうか。 

 わが国のお役所の慣例として「予算は必ず年度内に費(つか)い尽くす」ことになっていますから800億円の予算は元売り29社に必ず支給されるでしょう。

 

 ネット上に氾濫する情報のリテラシーがうるさく言われる昨今ですがマスコミの報道も「裏読み」できる能力を身につけないと世の中の動きに取り残されてしまう――そんな難しい時代になってしまったようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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