2022年4月4日月曜日

BRICs(ブリックス)は今

  BRICsがはなばなしくマスコミを賑わしたのはもう20年も前のことです。B(ブラジル)R(ロシア)I(インド)C(チャイナ―中国)――のちにS(南アフリカ)を加えた5ヶ国でBRICSとなりました――の4ヶ国を新興経済国として21世紀の世界経済を牽引すると予想したゴールドマン・サックス社2003年のレポートは、2050年にはBRICsがGDP上位6ヶ国に入る可能性もあるとさえ予測していました。広い国土と多くの人口、そして豊かな天然資源が成長の原動力になると考えたのです。(以下ではSを加えたBRICSで話を進めます)。

 

 世界人口の4割を超える(2020年42%)BRICSは、2000年には世界経済(GDP)の僅か8%にすぎなかったのですが2020年には25%(24.5%)を占めるまでに成長しました。この間2.5倍成長した世界経済のなかでBRICSは7.5倍も成長を遂げたのです。なかでも中国は12倍で突出しておりつづいてインド5.6倍ブラジル2.2倍ロシア5.3倍南アフリカ2.2倍を示しています。これによって中国は3.5%に過ぎなかった世界に占める割合を17.5%までに存在感を高めました(他の4ヶ国は合計で4.5%から6.9%に上昇しました)。しかし上位6ヶ国はアメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インドの順で変わっていません。世界経済の力関係はがっちりと固まっていてそれを突き崩すのはおいそれといかないということでしょうか。あと30年で先進国が衰え新興国の活力が益々高まらないとBRICSの上位独占は実現できませんが日本はよほどがんばらないと下位下落は確実な状況です。

 

 BRICSの上昇気運が明らかなことはデータ通りですがここにきて気がかりな傾向もあります。中国の成長度合いが鈍ってきたのです。1990年代後半から10%を超える驚異的な成長を示していた勢いが2010年の10.61%を最後に急激に落ち込み6%台を維持するのも困難になっています。成長の原動力であった潤沢な労働力が2027年から労働人口減少期に入り、高齢化率も2010年以降は10%台に、2025年には高齢社会に突入し2035年には65歳以上人口が20%を越え超高齢化社会になることが予想されています。

 さらに問題なのは国民の豊かさです。1人当りGDPを豊かさの指標にしてBRICSを見てみると2020年時点で中国1万511ドル(世界の64位)ロシア1万115ドル(66位)ブラジル6千823ドル(88位)南アフリカ5千625ドル(95位)インド1千930ドル(150位)になっています。円換算(1ドル115円として)で年収になおしてみると中国120万円ロシア116万円ブラジル78万円南アフリカ65万円インド22万円になります。アメリカは729万円日本461万円ですから彼らの生活水準が想像できるでしょう。世界標準の豊かさの最低水準は2万ドル(230万円)といわれていますから中国でさえ標準の半分に過ぎません。成長には1万ドルの壁があると考えられておりこれを「中所得の罠」と言いますが、BRICSがこの壁を破って富裕国の仲間入りを果たすにはまだまだ乗り越えなければならない多くの課題が横たわっているのです。

 ロシアが「プーチンのウクライナ侵略」という理不尽な戦争を起こしました。中国は南沙諸島を埋め立て人工基地を建造して東シナ海、太平洋への海洋進出を企図しています。いづれも戦力による「現状変更」です。2大強国の「力による現状変更」の底には強国でありながら国民の豊かさを実現できない「ジレンマ」があるのではないでしょうか。

 

 2020年の1人当りGDPで2万ドル以上の国は世界の国地域195ヶ国のうち約45ヶ国にすぎません。1万ドル以下の国は128ヶ国もあり最貧国と呼ばれる国が28国もあるのです。世界の飢餓人口(1日1.9ドル以下で生活する人たち)は2020年は前年より1億1800万人増えて8億人前後存在していると推計されています。

 こうした情勢の上に「人口爆発」という重大な問題を世界は抱えています。2020年の世界人口は77億9500万人ですが2038年には90億人、2056年には100億人を超えるのではないかと予測されているのです。

 驚異的な成長を遂げた中国でさえ解決できなかった「豊かな国」への飛躍。アジアにはインドネシア2億7千万人、パキスタン2億人、バングラデシュ1億64百万人、フィリピン1億人、ベトナム97百万人と多くの人口を抱えた国がひしめき合っていますし人口爆発は発展途上のアフリカで最も爆発するのです。アジアとアフリカをどうすれば豊かにできるか?21世紀最大のテーマです。

 

 これだけ難問山積の世界情勢を今のまま何の改革もせずに乗り越えられるでしょうか。

 問題の根本は「資源の有限性」です。考えてもみて下さい、石油も食糧も工業資源にも限りがあるのです。それなのに世界のすべての国を富裕国に――1人当りGDPを2万ドルにすることなど誰が考えたって無理なことは分かるではありませんか。地球があと6つか7つあっても無理な相談です。

 もうひとつは資源の配分を「制限のない競争」にまかせている今の制度です。先にもみたようにBRICSはこの20年間に7.5倍も成長したのに上位6国の順位がまったく変動していないのは上位国の競争力が強力だからです。強力なまま固定していてそれを突き崩すほどの競争力はよほどのことがない限り現状の制度では無理なのです。企業や国の競争に制限を加えるか、競争以外の方法で配分するように制度変更するかしないと成長を世界に行き届かせることはできないのです。

 

 世界のすべての国を2万ドル以上の「豊かな国」にすることが不可能なら『豊かさの尺度』を変えるという方法があります。経済的な豊かさはほどほどにしてそれ以外の尺度を「豊かさ基準」に設定しその尺度を世界の人たちが納得するようになれば今以上に多くの人たちが豊かさ――「幸せ」を共有するようになるでしょう。

 競争による豊かな国の偏りを是正するには、資源の配分を強力な競争力を持った企業や国に有利な「制限のない競争」を『緩める』か『廃止』する――そんな制度をつくることです。言葉を変えれば『新しい資本主義』をつくるのです。

 

 忘れてはならない重大な問題があります。人口が多くて豊かになれない国の多くは『核兵器』をもっているということです。中国もロシアもインドもパキスタンも核保有国です。これまでは「抑止力」などという意味不明な言葉で核兵器の破壊力に目をふさいできましたが、今度のロシアの暴挙でそれが理性を盲信した「絵空事」でしかないことを思い知らされました。

 貧しい国、弱い国への思いやりを忘れ、己の「豊かさ」を当然の権利とした先進国の「驕り」が「核兵器の暴発」を誘導する危険性をはらんでいることを教訓とするべきです。 

 

 

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