2023年6月5日月曜日

塾のいじめの責任を学校が負うのですか

  孫が塾でいじめにあっているのに塾は何もしてくれない、という友人の嘆きを聞いてハタと思いました。塾は学校ではありません、企業ですからイジメが苦しいのなら辞めてくれればいいというのが基本的スタンスで表面的にはそれなりの対応をしても責任はとらないでしょう。ではイジメにあっている子どもを社会は、法律はどのように対処しているのでしょうか。

 インターネットで検索してみました。「学校法務」というサイトにこんなアドバイスがありました。

 Q  生徒が塾で他校の生徒から金銭の要求や暴力を受けているという噂を聞きました。学校は、対応を行わなければならないでしょうか。 

 A いじめ防止対策推進法23条2項に基づき、いじめの調査を行わなければなりません。その際には、加害生徒の所属する学校との連携協力が必要となります。

[補足説明]いじめ防止対策推進法にいう「いじめ」は、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している当該児童等と、一定の人間関係にある他の児童等が行なう心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義されており、学校は異なる場合であっても塾が同じであれば、一定の人間関係があるといえますので、この法律によるいじめに該当する可能性があります。そのため、同法23条2項に基づき、被害生徒が所属する学校が調査を行う必要がありますが、加害生徒が他校に所属している場合には、調査が難しいことが考えられるために、同法27条に基づき加害生徒が所属する学校と連携協力を行い調査を進めなければなりません。

 

 そもそも「塾」も「予備校」も「学校教育法」に定められた「学校」ではありません、「企業」ですからいじめに対する法的責任はなくて当然なのでしょう。しかしいじめはあると考えるのが自然で、では責任や対処はだれが取るのかを突き詰めていくと「公立の学校」が矢面に立たざるを得ない法的な枠組みになっていることを知ったのです。

 塾についてはこんなこともまかり通っています。公立中学校の進学についての三者面談のとき「それで塾の先生はあなたの進学校についてOKを出しているのですか」と訊ねられたというのです。学校の先生が「塾のお墨付き」を頼りにしている現状があるのです。

 最近教師の成り手不足が危機感をもって語られるようになりました。2022年の文科省の調査では全国で2500人以上の教員が不足していると報告されています。原因についてはいろいろ考えられますが、「多忙な業務」による過剰労働時間の問題、報酬の低さ――給料が労働の対価に見合っていない、などが上げられています。そして対策として、教員の働き方改革、多様な人材の活用などが検討されています。

 しかし本当の原因は別のところにあるのではないでしょうか。

 

 私が教職課程(教員資格を取る教科)を取らなかったのは、ひとにものを教える資格が自分には備わっていない、教え子の成長に責任をもつ覚悟がないという怯懦の気持ちからでした。それほど「教育」というものの価値と社会的地位の高さがありました。したがって教員になることに誇りがあったしやりがいを感じてもいたと思います。知識と教養を得ようとすれば学校以外の機関はなく、大学進学には公立高校――それも名門校に入るのが一番でしたが京都は地域制でしたから選択肢は閉ざされていました。そのうち受験に特化した私立の進学校が出現し、予備校、進学塾が求められるようになりました。大学進学率が向上し、教員よりも高学歴の保護者が増加し教員と保護者が対等の存在になる状況に至ります。ほとんど無条件に尊敬の対象となっていた状況がモンスターペアレントに怒鳴り散らされる存在に成り下がっているのです。あまつさえ塾の不始末の尻ぬぐいさえ押し付けられて、これで誇りをもって仕事に打ち込めるでしょうか。子どもたちに寄り添って学習能力の向上と精神的成長に力を尽くしたいと思っても、文科省や教育委員会等からの雑務に忙殺されて時間的にも精神的にも余裕を奪われている。加えて同士であるはずの文科省の役人や学校の関係者(教員や教育委員会の役人)の公立校離れが常態化しています。

 こんな教育現場に魅力を感じる若者がいるでしょうか。

 

 そして今や文部科学省の年間予算額は約5兆3千億円(2022年度)なのに対して教育産業の市場規模は約2兆8千億円(20121年)にも達しているのです(主要15分野計)。

 

 冷静に考えてみましょう。一国の教育が学校教育法に定められた学校でない「企業」と、国家資格の「教員」でない「塾(予備校)講師」が、学校と教員と同等に、いやそれ以上の影響力をもっている現状に国は何ら「是正措置」を講じていないのです。むしろその存在を黙認し自ら(役人たち)はそれに便乗さえしているのです。「教育の失敗」にたいする「責任体制」は存在していません。経済の停滞や社会規範の毀損は「教育の影響」が大きいと思うのですが現状の法体系では文科省も政治(行政)も責任をとらない体制になっているのです。いわば「教育の無法」機関に一国の教育が蹂躙されている現状に誰も疑問を抱いていないのです。

 こんな無責任で無法な教育体制をこのまま放置しておいていいのでしょうか。

 幸い「生成AI(チャットGPT)」が出現するに及んで塾(予備校)機能を代替する可能性がみえてきました。これを活用すれば塾(予備校)を駆逐できる環境は整いますが国家予算の半分にも及ぶ経済規模の産業を国は消失させる英断を下すでしょうか。

 

 塾と予備校と講師を「国の教育体制」の中に「位置づける」法的体制を整備する。「教育の無法体制」を改善するには政治がこうした取り組みをすすめる以外にないと考えますがどうでしょうか。

 

[資料]「いじめ防止対策推進法」〈いじめに対する措置〉23条「学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする。」

2項「学校は、前項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。」

サイト「学校法務」「学校法務」は、教育委員会や学校による法的対応力の向上のために必要な情報を提供することを目的に開設されました。管理者:小美野達之。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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