2023年7月17日月曜日

危機管理の落とし穴

  北朝鮮・中国の脅威、ロシアのウクライナ侵攻、コロナ禍、温暖化による自然大災害の頻発、福島原発事故、デフレ、少子・高齢化と矢継ぎ早に生起する「大転換」を思わす事故・事件・変容に安倍、菅、岸田の保守政権は第二次大戦後の「国際秩序と日本の戦後体制」を超越した「危機管理対応施策」を「行政の暴走」的に打ち出すことで対応しようとしました。しかし「起こるかもしれない戦争」に「軍備増強と軍事同盟の強化と多角化」で対応しても、「不成長」を「非伝統的経済政策」で解決しようとしても、本質を見失った方策では決してことを解決することにはならないのです。

 

 「常備軍が存在するということは、いつでも戦争を始めることができるように軍備を整えておくことであり、ほかの国をたえず戦争の脅威にさらしておく行為である。また常備軍が存在すると、どの国も自国の軍備を増強し、多国よりも優位に立とうとするために、かぎりのない競争が生まれる。こうした軍拡競争のために、短期の戦争よりも平和の方が大きな負担を強いられるほどである」。これは1795年に発表されたカントの「永遠平和のために」にある言葉です。そして彼は「常備軍が存在する限り『平和』は戦間期の停戦状態にすぎない」と結論するのです。

 200年以上も前に述べた哲学者の「至言」通りに21世紀の世界情勢が進行していることに驚きを感じると同時に人間のあまりの進歩のなさに呆れかえってしまいます。アメリカ一極から中国、ロシアの反米勢力の勃興による「多極化」の時代にアメリカ一辺倒の「同盟強化」に前のめりな現政権に限りない「危うさ」を感じる「年寄り」が多いのは当然の「賢明さ」です。

 

 世界の軍事大国が忘れている重大な問題点があります。「使われない軍備」は『劣化』するということです。使わない兵器にも「保管・格納」費用が必要だということです。その最たるものが『核兵器』です。2021年現在「配備核弾頭」はアメリカ1800、ロシア1625、「核兵器数」アメリカ5800,ロシア6375となっています。英国、フランスも数百発保有していますし中国は不明です。これらはすべてほとんど1980年以前に製造されたもので40年以上保管・格納されたままになっています。通常兵器でも保管には厳重な管理体制と費用が必要ですが核兵器はその比ではありません。劣化する核兵器を「使える兵器」として保持しようとすれば、年々老化する核弾頭をフレッシュに保つ「更新」が必要になります。核軍縮に熱心だったオバマ政権の終了を待っていたかのように2018年頃から「更新」の検討が具体化するようになっています。

 アメリカ議会予算局の試算では、核戦力にかかる総コストは、2024年までに3480億ドル(約35兆1340億円)になっていますが、この金額には2020年代後半に予定されている更新費用が含まれていません。外部による試算では。核戦力の維持・近代化のコストを30年間で約1兆ドルとみています。今の円ドル相場(1ドル135円)を適用すると135兆円になります。アメリカの国家予算は約1兆7千億ドルですから核戦力にかかわる費用の膨大さが分かります。

 アメリカはこれをやり遂げる意思と経済力があります。ロシアはどうでしょうか。その他の核保有国にそうした危機意識があるでしょうか。

 わが国はアメリカの核の傘に守られています、であるからには何分の負担は当然の義務と考えるべきでしょう。わが国は2023年から5年間の防衛費の総額を43兆円程度にすることを決定していますがアメリカとの軍事同盟を今後も維持していくためにはとてもこの程度の予算では済まなくなる時期が必ず来ます。政府にそれだけの覚悟はあるのでしょうか。また軍備増強を声高に主張している保守系右派の人たちはこうした状況を正確に把握しているのでしょうか。

 軍事大国化することで今の危機的状況を乗り越えようとする考え方の人たちは、年間100兆円の国家予算の一体何割を軍事費に充当しなければならないかをはっきりと覚悟する必要があります。

 

 外務省の海外在留邦人数調査によると2022年10月1日時点で海外永住者の数が過去最高の約55万7千人になっています。生活の拠点を日本から海外に移した「永住者」の数です。この傾向は03年から22年まで20年連続で前年比増加していて、特徴は女性の永住者が増えていることで22年の男女別構成比は女性が約62%になっています。賃金や労働環境、社会の多様性などの面で、日本よりも北米や西欧諸国に相対的な魅力を感じる人が多くなっているのではないか。閉塞感が解消されなければ、永住者の増加傾向は今後も続くだろう、と専門家は分析しています。

 厚労省は2022年の出生数が79万9728人、前年比5.1%減であったと発表しました。

 年間80万人の新生児が生まれる一方で毎年2万人近い人が日本から海外に移住しているのが今の日本なのです。

 少子高齢化を抑制しようと岸田さんは「異次元、いや次元の異なる少子化対策」を行なう、少子化予算を倍増すると大号令をかけました。しかし海外永住者の増加という現象をみると、お金の問題ではないような気がします。女性が多いということはジェンダーギャップが大きくて日本より海外の方がチャンスがあると考える人――特に若い人が多いからではないでしょうか。高齢者の立場に立てば物価の高い日本より海外の方が暮らしやすいと考える人がいてもおかしくありませ。年々大きくなる格差、一向に上がらない給料。大学進学率が高まっても学校(学力)格差は無くならない。一方で株ばかりが高くなって潤っている人もいます。

 誰もが努力すれば人並みの生活が送れて将来に希望が持てる。そんな社会を皆が望んでいるのではないでしょうか。少子化対策などないのです。日本人が皆、希望の持てる社会にすることこそ少子化対策なのです。少子高齢化というはっきりと表に数字が出る危機ばかりに目を取られて年々増加する海外永住者の増加に気が回らない。ここにも危機管理の落とし穴があるようです。

 

(資料) 水爆はナガサキ型プルトニウム原爆を発火剤にしてその数千倍の爆発力を核融合で得るものであり、この発火用原爆はピットと呼ばれ、グレープフルーツほどの大きさで重さ3キロぐらいの中空のボールである。プルトニウムの半減期は2万4千年と十分長いが、崩壊の過程で放出されるアルファ粒子が結晶の間にとどまってピットの変形を引き起こすという。発火剤はピットの爆縮で連鎖反応の臨界点に達する仕組みなので、厳密な形状が要求され、微小な「変形」でも許されない。ピットはいわば生もので賞味期限があるのである。/ここに、核弾頭を“使う兵器”として保持しようとすれば、年々老化する核弾頭をフレッシュに保つ更新が必要になる。/2080年までに4千個の核弾頭のピットを入れ替えるために年間80個のピットを製造する方針が出され、その費用や新施設の検討が始まっている。(2023.6.25京都新聞〈天眼「老化する核弾頭」京大名誉教授・佐藤文隆〉より)

この稿は上記の記事を参考にしています

 

 

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