2025年2月3日月曜日

子育ての大誤解

  早いものでもうすぐ孫が3才になります。

 先日お迎えへ行ったとき、いち早く私たちを見つけた女の子が離れたところにいる孫に「Hくん」と呼びかけるとカレは猛スピードで飛んできました。まだ3歳にもならないこの子たちにもう仲間(友達)意識が芽生えていることに驚くとともに1歳保育を決断した娘たちの選択に誤りがなかったことに嬉しさを感じました。

 ヨチヨチ歩きのことばもまだ満足でない頑是ない幼児を親元から離して保育園に預けるなど不憫すぎると内心大反対だったのですが妻に口出しを禁じられていたので黙って耐えました。しかし私の「子育て神話」は半年も経たないうちに見事に打ち砕かれたのです。知能、体力、しつけ、社会化だけでなく非認知能力――根気、やる気、自制心なども親(やジジ・ババ)ではこんなに早く身につかなかったであろう成長を孫は示したのです。

 

 晩年の読書で知った大きな発見のひとつは「ヒトは早産で生まれてくる」というものでした。成体で生れるにはヒトは12~14ヶ月要します。成体になった胎児を出産するには母体の構造が適していないので――出産が危険なので10ヶ月――早産で生れるよう進化したのが現生人類というのです。二足歩行はヒトの脳を他の哺乳類の3~4倍の大きさに進化させました(ゴリラが400gなのに対してヒトのそれは1200~1400gあります)。二足歩行で骨盤の小さくなったヒトに成体で出産することは危険になったのです。死産と母体の損傷(死も)を繰り返した結果早産で生まれるよう進化したのです。従ってヨチヨチ歩きまで8ヶ月から1年、離乳も早くて1年後、言語の習得は3年と養育期間の長期化がヒトに必然化したのです。

 現生人類が出現して30万年、農耕は始まってまだ1万年ですからヒトの歴史のほとんどは「狩猟採集時代」です。狩猟はオトコの仕事、採集はオンナの仕事と役割分担されていて、狩猟は不安定ですから食料の基礎は採集が担っていました。ハハも貴重な労働力でしたから産後もスグに労働にかりだされます。子育てはババたちの共同作業で行われました(ババといっても20代後半から30才だったでしょう、平均年齢は30才に満たなかった時代ですから)。農業時代になってもハハは農作業に欠かせない存在でしたから子育ては大家族で行なわれました。子育てが「核家族のツマの専業」のように認識されるようになったのはここ40~50年のことです。人類の歴史を考えれば「子育ては集団で行う」のが自然なのです。

 経済的な理屈を言えば、工業化都市化(核家族化)が急速に進展して大量の労働力が必要になった製造業主体の産業資本主義は長時間労働(労働力×労働時間)を可能にする家庭システムが望ましいので「専業主婦」という存在をつくりだしたのです。これは日本だけでなくアメリカもヨーロッパも先進国共通の現象です。「3才まで母親が育てるべき」という「子育て神話」はこうして作られたのです。しかもこれは幼児教育にも影響を与え幼稚園教育は3才からとされ、保育園は経済的に恵まれない母親も働かねば家計を維持できない低賃金層の家庭を援助するシステムという位置づけで生まれ今日までそうした印象が残っているのです(幼稚園は文科省、保育園は厚労省という役割分担にそれが表れています)。

 

 昨年の大河ドラマの「光る君へ」を見ていて天皇や貴族(高級官僚)の子育ては乳母たちが行なっていて彼女たちが皇后や天皇のもとに「お目見え」で成長を見せるかたちになっているのを知りました。イギリスの上流階級では住み込みの乳母と家庭教師で子育てを行い就学年齢に達すると寄宿舎のある私立の学校へ入れます。子育てに親はほとんど関与しないのですがイギリスの指導層はこうした環境で育った人たちで構成されていました。

 子供は親の影響で育つ――3才までは母親が育てるのがベストという「子育て神話」の根拠はどこにあるのでしょうか。

 

 お迎えに行ったときの楽しみは「連絡帳」を読むことです。子育て一年生の娘は細々とした子育ての困ったことや心配を素直に連絡帳に書いていますが(えらいと思います)保育士さんはその一つひとつに丁寧に答えながら園での孫の成長ぶりを愛情込めて書いてくれています。ふたりの交流はその辺の子育て本を読むよりも面白く有益な実践に富んでいます。

 考えてみれば当然のことで保育士さんは専門教育を受けて、精選された知識の蓄積と実践のプログラムに基づいて保育するのですから素人の親が試行錯誤しながら子育てするのと比較にならない成果をもたらして何の不思議もないのです。

 今でも幼児保育(1~2才)を蔑視して3才になって家庭で育てられた幼児との混合クラスになると保育園で育った幼児はしつけが行き届いてないから落ち着きがなくガサツな子が多いなどというネットの情報がありますが本当にそうでしょうか。

 

 子育て神話に疑問を抱いて図書館のネット検索していると『子育ての大誤解(ジュディス・リッチ・ハリス著ハヤカワ文庫NF)』という本がヒットしました。その主論点は「集団社会化説」といいます。まだ読み始めたばかりですが読み終えたあかつきには改めて論旨を紹介したいと思っています。

 

 80才で授かった孫の成長は老人にとって澪標(みおつくし)です。老いと真逆の生命のかがやきは生きる意欲を覚醒してくれます。本当にありがたくまぶしい「我が孫」です。

 

 

 

 

 

 

 

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