2011年10月3日月曜日

妾気質

 妾気質(めかけかたぎ)という言葉がある。永井荷風はこんな風に言っている。
 「(1)この女芸者せしものには似ず正直にて深切なり。去年の秋より余つらつらその性行を視るに心より満足して余に事(つか)へむとするものの如し。(略)(2)お歌はまだ二十を二ツ三ツ越したる若き身にてありながら、年五十になりてしかも平生病み勝ちなる余をたよりになし、更に悲しむ様子もなくいつも機嫌よく笑うて日を送れり。むかしはかくの如き妾気質の女も珍しき事にてはあらざりしならむ。されど(略)(3)かくの如きむかし風なる女のなほ残存せるは実に意想外の事なり。(略)(4)かかる女は生来気心弱く意気地張り少なく、人中に出でてさまざまなる辛き目を見むよりは生涯日かげの身にてよければ情深き人をたよりて唯安らかに穏やかなる日を送らんことを望むなり。生まれながらにして進取の精神なく奮闘の意気なく自然に忍辱(にんにく)の悟りを開きゐるなり。これ文化の爛熟せる国ならでは見られぬものなり。」(「断腸亭日乗」より、カッコ内数字は筆者添付)
 
 長々と引用したのは昨今世上に増殖しつつあるといわれている『草食系男子』と一脈通じるところを感じたからである。草食系男子は、苦労を嫌い未知の世界に飛び込むことを敬遠する「内向き志向」の若者だといわれている。上記(4)を読めばほとんどそのまま「草食系」を思わせるではないか。今やお妾さんは絶滅危惧種となってしまったが、世紀末を経た文化爛熟の平成に妾気質が男性のうえに復活しようとは。

 この風潮は何も若者に限ったことではない。2022年までに原発廃止をきめたドイツでは、電力会社は人員削減などの合理化を推進すると同時に再生可能エネルギー関連へ直ちに事業シフトする一方で、製造業などの大口需要家は敷地内に風力発電所を設置したりして再生可能エネルギーの活用を急速に拡大している。これに反して我国では未だに原子力発電の透明性ある十分な検証も行われず国民への説明責任も果たされないまま再稼動前提のエネルギー政策がとられ、産業界はエネルギーコスト高騰等を恐れて国内空洞化已む無しを当然としている。これを「生来気心弱く意気地張り少なく、進取の精神なく奮闘の意気なく」と言わずしてなんとしようか。

 「元始、女性は太陽であった」。いよいよ平成は女性の時代になりそうだ。

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