2013年9月2日月曜日

老いを生きる(続)

 渡辺淳一の話題作「愛ふたたび」を読んでみたいと図書館に予約したところ何と予約順位110位!私は滅多にベストセラーを読まないからこれがどれ程の人気振りか分からないが、決して低い方ではないだろう。ということはこの小説のテーマがそれだけ時代性を持っているということになる。その内容とは。73歳の医師「気楽堂」国分隆一郎が亡妻の面影を持つ40代半ばの女性弁護士と恋に落ちる。しかし彼はもう男性機能を喪失している。どうすれば愛を成就できるのか、その時性愛はどんな形をとるのか。シニア男性の苦悩と歓喜を渾身の熟達の筆で描く渡辺淳一の表現がナマナマしすぎることが災いして連載打ち切りになったことも一層話題を盛り上げた。
 
 わが国では何故か「年寄りの性欲」は否定されてきた。みっともないと軽蔑され「茶飲み友達」が好もしいと言われてきた。しかし高齢化が進展し健康でリッチなシニアが増え、しかも彼らは現役を離れてストレスから解放されているから中年男性よりかえって元気がいい。一方「年寄り」と呼ぶのが失礼なほど若々しくて魅力的で行動的なシニア女性が溢れている。これだけ条件が整えば恋愛や性愛の新しい形が現れても不思議はない。鴨川近くの風俗街では以前から「シニア割引」があって結構需要があるらしいがそんな歪んだものでなく、夫婦が、又シニアカップルが新しい愛の形を育んでもいいではないか。渡辺淳一はそんな「夢心」を挑戦的に訴えたかったのだろう。

 J・アタリが「21世紀の歴史」の中で「21世紀は暇つぶしと保険の時代である」と警告している。昨今のスマホ全盛をみると「一億総暇つぶし」は確実に現実化していることを思い知らされる。若い人たちのゲームとフェースブックやLINEを通じた「友達ごっこ」に熱中する姿はあまりに危うい。しかし若い人ばかりではない。テレビにコマーシャルが溢れる「高齢者向け保険商品」は『人類の経験したことのない高齢社会の不安』を象徴していないか。高齢化が進んで平均寿命が伸び健康志向が異常に高まる一方で万一病気に罹った時の備え、死後子供たちに迷惑をかけたくない、という高齢者の不安に保険と健康補助食品が見事に応えているようにみえる。
 しかし「不安」というのは「不安のもと」が正確に把握できないから生じるので、医療保険なら医療費の概算が分かっておれば自分なりの対応ができるはずだ。ところが「疾病別医療費概算」的な資料が公的にはないのだ。区役所の窓口へ行っても病院へ行ってもない。社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会がどうしてデータを公開しないのか。もうひとつ、健康保険の「高額療養費支給制度」をどうしてもっと分かり易く国民に広報しないのか。私の知人が重篤な病気になったとき、病院から制度のことを教えて貰って初めて知ったと言っていた。元気な時に知っていたらあんな高い保険に入っていなかったのに、とも嘆いていた。ちなみに、70歳以上の医療費は同制度によって「外来なら月額12,000円、入院なら月額44,400円」が支払限度になっている。
 では疾病別の医療費は大体どれくらいなのだろうか。最も高額なものは「くも膜下出血、日額約4万6千円、治療日数約100日、治療費総額460万円」、ついで「白血病、5万8千円52日300万円」になっている。しかし先の高額療養費支給制度を使えばくも膜下出血は23万円弱(44400/30=1500×100=15万円+食費約8万円)で済む。この方式によれば脳内出血30万円、乳がん5万4千円の負担になる(医療費データは「オリックス生命データファイル」による)。
 
 老いを「自分らしく」生きる工夫をしたい。

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