2015年3月1日日曜日

テレビドラマ、ヒットの法則

 大層なタイトルだが要は私の好きなドラマについて書いてみたいと思っただけのことである。今放映中のものでは「DOCTORS 3―最強の名医」と「限界集落株式会社」のふたつを毎週見ている。前者はテレビ朝日木曜9時放送で沢村一樹扮するゴッドハンドの名医が地方の総合病院を舞台にお家騒動がらみの混乱から病院を救う筋立て。もう片方はNHK土曜ドラマで「農業もの」である。
 「ドクターズ」は地方の私立総合病院で、跡取りと目されている院長の甥が手のつけられない「ぼんぼん息子」の我侭放題で病院の勤務医を子分にし難度の高い手術を避けるような風潮に走らせてしまった結果病院の評判を極端に悪くしてしまうのだが、沢村名医が策略をめぐらして医師を改心させ病院を立ち直らせる―まだそこまで話は進展していないが多分そうなるであろう―というストーリーである。
 「限界――」は限界集落に陥った農村をいかにすれば「儲かる農業」に変身させられるかを敏腕コンサルタントと有機農業に打ち込む農家のふたりが主人公になって、老齢化した農民の頑迷な農業経営に意識改革を起こさせ有望な地域特産品の産出へ導く姿を短大を卒業したばかりの娘を舞台回しに達者な脇役を使いドラマ展開していく。
 
 ふたつのドラマの共通点は病院(医療)と農業という「岩盤規制」のある産業を侵食している『腐敗』と『停滞』に焦点を当て、それをいかにすれば改革できるかを若い力やゴッドハンドを引き金として解決に導いていくというスタイルで、これが最近のヒットドラマの『定石』となっている。
 岩盤規制のひとつである「教育もの」の最近の作品には余り興乗りしないが「医者もの」なら同じテレ朝系の「ドクターX]が昨年米倉涼子主演で大ヒットしたしTBS日曜劇場「半沢直樹」は金融界の腐敗を暴いてこれも大ヒットであった。NHK土曜ドラマで斉藤工主演の「ダークスーツ」は経営危機の家電メーカーを従来の垂直型の「ものづくり」経営から「ライセンスビジネス」という新たな分野への進出に導くことで停滞から脱出させようとする家電業界へ「問題提起」したドラマで見応えがあった。
 法曹界のドラマでは木村拓哉主演の「ヒーロー」が検察を舞台にヒットを繰返している。権力に深く根ざした法曹界はキナ臭い不正が幅を利かす業界としてその「停滞」と「腐敗」がドラマに映画に何度も取り上げられ数多くのヒット作を生み出している「定番ジャンル」である。「ヒーロー」は不良少年だった主人公が「高卒認定」を経て司法試験に合格し検事になる。彼の仕事振りは警察からの「調書」にもとづいてデスクワークで案件を処理していく一般の検事のルーティンワーク(多分多くの検事がそうであろう)とは異なり少しの疑問でもあれば現場検証を独自に実施して審理を尽くし調書に潜む「誤認」を明らかにし「正義」を貫くというものでキムタクの颯爽とした演技は壮快でテレビに釘づけになっている。
 
 わが国には「水戸黄門」という「不正暴露ドラマ」の定番がある。黄門様が地方藩に巣食う不正を糺そうとするが多勢をかって悪代官が返り討ちしようとする。そこで最後の手段「葵のご紋の印籠」をかざすとそれまでの騒乱の場が一瞬にして平定され悪代官が縛に付くというマンネリそのものの筋立てであるが、古くは幕末に講談師が「水戸黄門漫遊記」として民衆の人気を博して以来今日まで連綿とつづく大衆ドラマの典型となっている。月形龍之介主演の東映映画が一世を風靡したが映画の最初は有名な尾上松之助が主演しておりテレビドラマでは東野英治郎が長く黄門様を演じていた。
 
 何故このようなドラマがヒットするのか?デフレが長くつづいて閉塞感が横溢する現状は既得権を欲しいままにする既存の組織を徹底的に破壊し組織に巣食う「停滞」であり「腐敗」を打破する以外に『出口』は無いからであろう。そしてデフレ経済の象徴である停滞と腐敗に挑戦する庶民の正義や基盤技術に根ざした地道な技術開発が「現在の御印籠」として設定され「権力側」に敢然と挑む「弱い庶民」や「一匹狼の超能力者」の姿に視聴者は鬱憤を晴らし「快感」を覚えているがそれが一時の「現状逃避」に過ぎないことは彼らが一番よく知っている。
 
 庶民は映像という「仮想空間」ではなくデフレを「転換」し少しでも明るい未来が見通せる社会の実現を政治に期待している。

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