2015年5月15日金曜日

百年の計

 我国が二度の国家的危機(明治維新と敗戦)を乗り越えて繁栄を享受できたのは「国家百年の計」として教育に国力を注いできたからに他ならない。しかし事情は一変している。 
 
 教育機関への公的支出経済協力開発機構(OECD)加盟国30カ国中最下位―とOECD警告を発している。2010年度加盟国の教育状況の調査結果図表でみる教育2013年版によれば我国の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合前年と同じ3.6%で、加盟国で比較可能な30カ国中最下位最下位は4年連続だという。高等教育機関の授業料が高いにもかかわらず、奨学金を受けている学生が少ないことも指摘しており、「高等教育を受ける人が増えれば社会への利益還元も大きい。公的な経済支援を充実させていくことが重要」としている。教育機関に対する公的支出のGDP比は、OECD加盟国の平均が5.4%。最も高かったのはデンマークの7.6%。以下ノルウェー7.5%アイスランド7.0%ベルギー・フィンランド6.4%と続く。イギリス5.9%アメリカは5.1%韓国は4.8%となっている又大学の授業料はOECDの14カ国は無償化、日韓米英加豪などは有償だが日本、韓国を除いて給付制の奨学金制度が整備されている。
 
 我国の大学授業料は国公立が約53万円(平成24年度)私立平均が86万円で国公立と私学の差が狭まってきている。(授業料の推移は大まかに昭和50年国立36000円私立182000円、昭和62年国立300000円私立517000円平成9年国立469000円私立757000円になっている)。サラリーマンの平均年収がリーマンショックの直後の2010年に406万円に急落し2013年ようやく414万円に回復したがそれでも2009年の467万円に比べると50万円以上低いレベル(国税庁平成25年民間給与実態統計調査結果)にあることを考えると大学教育が徐々に「機会均等」から遠ざかっているのが我国の現状といえる。
 このことは奨学金の受給者数の推移にも表れている。我国の奨学金受給者(日本学生支援機構の奨学金受給者数による)の割合は2012年度52.5%(大学昼間部)にも達しているがこの急激な増加は無償の給付制度が廃止されすべて有利子(年3%、ただし在校中は無利息)の貸付制度になったことが影響している(2009年4月入校生から)。永く20%台で推移していたものが2010年に50%を超えたのは、有利子になって受給審査が緩和されたからであろう(受給者は2004年度に40%を超え2008年43.3%と徐々に増加していたが)。先進国では大学無償化が趨勢でそうでない国でも無償の給付制の奨学金が整備されているのに比べると我国と韓国の高等教育に対する姿勢は明らかに見劣りしている。
 学生の経済状況の悪化は「親からの仕送り額の減少」という形でも表れている。東京地区私立大学教職員組合連合の発表した「私立大学新入生の家計負担調査 2012年度」によると、自宅外通学者5月学直後の新生活や教材の準備で費用がかさむ)の仕送り額は10万6,500円(前年度比3,600円減)、出費が落ち着く6月以降(月平均)は8万9,500円(同1,800円減になっている。6月以降の仕送り額(月平均)は、平成6年の12万4,900円をピークに減少を続けており、過去最低額を更新した。
 
 こうした経済面の圧迫は学生のアルバイト時間を増加させ勉学へ悪影響を及ぼしている(リーマンショック後「生活苦のバイト」が大きく増え「余裕を求めてアルバイトをする人」の割合が減った。しかし一方で「アルバイト非従事者」率も2010年度では大きな増加を示しており、大学生の金銭をめぐって二極化が起きている感ある―(日本学生支援機構「平成24年度学生生活調査」2014年2月26日)。
 悪影響のひとつは学生の読書時間の減少という形で浮き彫りとなった。全国大学生活協同組合連合会の調査で、全く本を読まない学生が初めて4割を超えたのだ。電子書籍を含んだ読書時間でも、近年は減り続けている。米国のトップレベルの大学では在学中に500冊近くの本を読むといい、大きな差が見られる。全国の国公立、私立大の学部学生8930人の1日の読書時間は平均26.9分で、同じ方法で調査している2004年以降最も短くなった。竹内清・敬愛大学特任教授は現在の大学生について「大学生の生徒化進む―従順だが向学心に乏しい」と警鐘を鳴らしている(27.5.11日経「『学生調査』より)。生徒化とは、他律的、受身といった傾向で、大人や上からの指示に従順で素直な傾向である。(略)学生にとっての勉強イコール大学の授業であり、学ぶのは大学の教師が教えるもののみである。(略)大学の「専門学校化(資格や採用試験合格などの取得)」が同時に進んでいる、と竹内教授の指摘は続いている。
 
 少子化で労働力人口が劇的に減少する中、国力維持には「人的能力の向上」以外に道はない。高等教育の充実は喫緊の課題である。
 

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