2015年5月5日火曜日

癖馬讃歌

 天皇賞・春をゴールドシップが快勝した。ゲート入りを手古摺らせて4分も出馬を遅らせたうえにスタートしてからも走る気を見せずドンジリをノンビリ。それが向う正面で騎手がゲキを加えるとグングン捲くりあっという間に先頭直後につけると、何と折り合いをつけジッと4番手で我慢、直線を向いて騎手が追い出すと驚異の末脚を繰り出しトップでゴールイン、三度目の挑戦で第151回天皇賞馬に輝いた。豪腕横山典、一世一代の好騎乗であった。
 
 向う正面で捲くり出したゴールドを見ていて40年近く前のエリモジョージを思い出した。皐月賞3着以外にこれといって目立った戦績もない普通のオープン馬に過ぎなかったエリモジョージが1976年春の天皇賞の向う正面で名手福永洋一が突然手綱を緩めるとエリモは狂ったように速度を早めあっという間に先頭に踊りだすと後続を引き離し1着ゴールインしたのだ。以後福永洋一はエリモの気に任せる戦法を常用して宝塚記念など多くの重賞を彼にもたらした。
 「稀代の癖馬」という『冠』がエリモジョージに与えられたがゴールドシップも紛れもなくその範に入ろう。「癖馬」と言えばもう一頭カブトシローを忘れてはならないだろう。5歳秋まで凡庸な下級のオープン馬であった同馬が5歳秋の天皇賞―この当時は秋もまだ3200メートルであった―を人気薄で勝つと次走の有馬記念を向う正面からの捲くりでリュウファーロスやスピードシンボリといった強豪を同レース最大の着差(当時の)で圧勝したのだ。その後カブトシローは5勝しているがいづれも人気薄のときで人気になると凡走するという気紛れを繰り返した。
 
 カブトシローは増田久という中堅の騎手だったがエリモジョージは福永洋一、ゴールドシップは横山典弘という名手が御している。私の競馬歴は恥ずかしながら50年を超えるが、最近予想を「騎手」主体にするようになった。近年の傾向だが勝利騎手に偏りがある。特定の騎手の勝利数が多くなる傾向が顕著になっている。今年の5月3日現在のトップ10の騎手の勝利数は362、トップ20では577になっている。これは中央場所(東京、中山、京都、阪神競馬場)840レースと全場1176レースの割合に直すと中央がトップ10で43%トップ20で約70%、全場ではトップ10が30%トップ20が約50%を上げていることになる。一般の競馬ファンは主に中央場所(夏季は地方場所になるが)を馬券推理の対象にするからトップ20の騎手が70%の勝利数を独占している現状はこれ等の騎手を主体に勝ち馬推理をする合理性が高まることを意味している。
 
 近年中央と地方の交流が盛んになって地方の有力騎手が中央に転籍するケースが増えてきた。加えて今年からは外人騎手にも門戸が開かれてM.デームロ(伊)、C.ルメール(仏)の二人の外人名手が日本競馬に所属するようになった。現在トップ10に戸崎、岩田の元地方騎手がおり他にも内田、小牧という有力騎手が地方から来ているからこれに福永、浜中、武豊、川田、横山典、蛯名、北村(宏)、田辺の中央所属騎手を加えた14、15人の騎手に注目すればクラシックやGⅠレースの勝ち馬は大体推理することができると言っても過言でない。
 
 考えてみれば馬主や厩舎の立場になれば「乗れる騎手」に任せたいのは至極当然のことで馬主経済、馬房制限の厳しい現状は有力騎手偏重に益々拍車が掛かるに違いない。昔は「減量騎手(新人か騎手になって数年以内で勝利数の少ない騎手に重賞レース以外では負担重量を定量より1~2kg軽くする特典がある)」だけのレースや平場のオープンレース(重賞、特別レースでない)があって新人騎手や若い騎手にチャンスが設けられていたが最近はそうしたレースはほとんどない。そんなかで―騎乗機会の少ないなかで実力を磨くには余程の工夫と周囲の理解を得る必要がある。厳しいだろうが井上敏樹、伊藤工真また伴、義等の若手には頑張ってもらいたい。
 
 「個性的な馬」「驚くような騎乗振りの騎手」がもっと出てきて欲しい。何が何でも逃げ飛ばす馬やどんなレースでもドンジリの追い込みに徹した馬が走るレースはハラハラ楽しい。天皇賞の横山のように向う正面から捲くる騎乗や示し合わせたように人気薄の2頭が後続を30馬身も引き離してそのまま逃げねばるようなレースがたまには見たいと切に願う。
 3連単が導入されてから少ない賭け金で「高配当」が楽しめるようになった(「射幸心」を煽るとお役人は導入に反対したが実際は反対だった)。1年に数回しか配当に有り付けないが、僅かなお金でレースを楽しむという人が増えたのではないか。後は「楽しいレース、スリルのあるレース」が増えれば最高である。
 JRAさん、頼みますよ!   
―古い競馬ファンより
(今週は「株価の見方」との2本立てです)

0 件のコメント:

コメントを投稿