2017年7月3日月曜日

豊田問題と働き方改革

 豊田真由子衆議院議員による暴言・暴行が政治問題化している。移動の車中で男性秘書に行った議員の暴言・暴行の状況が生々しく録音されており、下品で粗野な上から目線の見下した音声を繰り返し繰り返し聞かされて嫌悪感を覚えた人も多かったに違いない。先ず問題にしたいのはこの男性秘書が「政策秘書」ということだ。暴言・暴行の原因が秘書の後援会員へのバースデイカードの宛名書きの「書き間違い」だったと伝えられているが、政策秘書の職務はそのようなレベルのものではなく、万が一何かの都合でその作業をしたとしても作業の「二重チェック」は当然のことであり、この作業でミスをするようではこの秘書男性の職務能力は相当低いといわざるを得ない。
 そもそも「政策秘書」というのは国会法に定められた「主として議員の政策立案及び立法活動を補佐する秘書」で国費によって議員一人に一人採用が許されている。任用資格は「政策担当秘書資格試験」に合格することが必要で、この試験は国家公務員のいわゆるキャリアクラスの試験よりも難しいといわれている。それゆえ細野豪志、林芳正などの国会議員も政策秘書出身である。ところが「抜け道」があって「選考採用審査認定」を受ければ同等の資格が付与され、公設秘書を10年以上務めたものや議員秘書に類似の職務を務めて審査認定委員会が認定すればよいことになっている。件の秘書氏がどのような経緯で資格を付与されたか明らかになっていないが多分「抜け道」組だろう。しかしこの「抜け道」は1993年の国会法改正によって「政策秘書」が新設された際、それまで議員秘書として勤務していた既存の公設秘書を『臨時的』に任用できるように設けられた「時限的」なものと捉えるべきで、法執行以来既に20年以上経過している現在、この「選考採用審査認定」制度は廃止されるべきである。
 
 さて問題を二つの視点から分析してみよう。まず議員と(政策)秘書は封建時代の主従関係のように支配と服従の「上下関係」が許されるか、という点である。録音を聞くと議員は完全に秘書を召使(下僕)扱いし「支配」し暴力を振るうことが当然のように認識している。しかし議員と政策秘書はそんな関係が許されるものではなく、対等でなければならないはずのものである。聞くところによると豊田議員は2012年の初当選以来5年間で100人以上も秘書が交代しているらしい。議員の秘書との対人関係が正常でないから普通の秘書は「居付かなかった」のでこうした実情は周囲に当然知れ渡っていたはずだから、先輩議員や派閥の長が注意し正しい秘書との人間関係を教えるべきで、派閥の長が議員の非をかばう様では問題外である。また秘書も議員が暴言・暴力をふるうようなら正々堂々と抗議し説諭すべきで余りにも議員の我侭放題を許しすぎた。
 
 もうひとつの問題は「政策秘書」という『職務』が確立されていないことだ。上にも述べたように『専門性』をもって議員活動を補佐するべく国会法を改正してまで設けられたものであるにもかかわらず玉石混交で、その『職務能力』に大きなバラツキがあるまま放置されてきている。理想論をいえば、議員は初当選からベテランまで経験と専門性に相当な差があるから政策秘書は専門性をもって議員の能力・経験の不足する領域をカバーして国民の負託に応える仕事が完遂できるように補佐すべき存在でなければならない。例えば議員が厚労省の政務官に任用されたら厚労業務に専門性を持った政策秘書が採用されて経験ゼロの議員であっても一定レベルの職務が遂行できるように補佐する、内閣改造や政権交替があれば従前の採用関係にこだわらず件の秘書は新たに厚労業務を担う議員に採用される。このような関係が政策秘書と議員の雇用関係になるのが望ましい。
 ところが制度発足から20年以上経っても未だにこうした『政策秘書』制度に育っていない現状が今回のような騒動を引き起こしたのである。
 
 安倍内閣の目玉政策のひとつに「働き方改革」が揚げられているがお膝もとの議員活動がこの体たらくでは改革が遅々として進まないのも宣(うべ)なるかなである。時間外労働の適正化が「働き方」を見直す大きな要素と捉えられ取り組みが検討されているが、中央官庁や議員が「残業ゼロ」を率先垂範すればアッと言う間に実現できる。やる気があるか無いかだけのことだ。
 もっと大事なことは「労働時間、勤務場所、職務範囲」に無限定な『日本的職務』のあり方を改め『職務内容を明確化』して『専門性』を高めることだ。「政策秘書」など最も「職務内容が明確で専門性の高い」仕事であるから本来あるべき形に「政策秘書」という職務が確立されて、職務権限としての上位者と下位者の別はあっても仕事として議員と秘書が対等で互いに認め合う関係ができておれば今回のような騒動は起こるはずがなかったのだ。
 
 組織というものは「目的」を「意欲」と「円滑なコミュニケーション」で遂行し、『達成感を共有』して働く喜びを分かち合うものだ。議員事務所といえども組織であるからにはこの原則は貫徹されなければならないが、豊田真由子事務所にはこのすべてがなかった。議員は「目的」を所員に提示していなかった、所員に意欲がなかった、情報の共有は果されていなかった、これでは「事務所」として機能するはずもなく、苛立って暴言・暴行を振るうしかなかったのだ。
 
 安倍内閣は毎年のように口当たりの良い「政策目標」を並べ立てるが実現されたためしがない。「働き方改革」はまず「政策秘書制度」を本来あるべきかたちに確立し、議員事務所が正常に機能できるようにするところから始めるべきであろう。
 
 
 

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