2019年7月29日月曜日

吉本を考える(続)

 吉本の岡本社長の記者会見を見ていて日大アメフト部の危険タックル事件を思い出した。危険タックルを教唆された(?)少年がスポーツマンシップに反する行為であったと反省して単身記者クラブで会見して謝罪と贖罪を表明したにもかかわらず、教唆したであろう監督とコーチはそれを否定し選手の任意なプレーであったと強弁した。大人である上位者が事件の不関与を主張し実行者である下位者たる少年は真摯に反省の意を貫いた。
 今回の吉本の芸人による反社会的勢力主催のイベントに出演しギャラを受け取ったにもかかわらず受け取っていないと嘘をついた事件に対する芸人の赤裸々な真実(?)の吐露と謝罪の会見と、会見を阻止しようとした会社側社長のパワハラと隠蔽否定の会見は、上位者下位者の構図が日大アメフト事件とまったく同じであることに驚きを禁じ得なかった。
 今や吉本という会社の存在をめぐる社会問題にまで発展し経営アドバイザリー委員会という第三者委員会を設置して終息を図らねばならなくなっている。
 
 この事件について(続)を書こうと思ったのは、基本的な問題が検討されないうちに上っ面の「解決」が図られようとしている流れを鑑み、改めて問題の根っこから糺してみようと思うからである。
 
 吉本芸人でもある「カラテカ入江」なる人物の手引きによって宮迫、ロンブー亮ほか10人ほどが出演したイベントが(1)「反社会的勢力」の主催であったことを芸人たちは知っていたのか、ギャラを受け取ったことを「嘘」をついたとされているが(2)吉本は「嘘」をつかれたのか?吉本は「嘘」を見破れなかったのか、の二点がふたつとも当然のこととして『前提』となってことが進められているが、これはどちらも「知っていた」「嘘をついた/騙された」のだろうか。
 まず「反社勢力」であるかどうかについては宮迫氏たちが確かめた時点で、カラテカ入江が「吉本の主催したイベントにもスポンサーとして参加している会社ですから問題ありません」と説明している。これを信用して芸人たちは出演を了承していたとしたら芸人は一方的に責められるべきだろうか。脇が甘かったことは批判されて当然だが不可抗力な側面もあり一片の斟酌はあっていいのではないか。
 
 ギャラを受け取っていないという芸人からの訴えを吉本はそのまま受容れ「騙された」態を装っているが、これについて松本人志氏が日曜日放送の「ワイドナショー」で、「宮迫からギャラは受け取っていないと打ち明けられたとき、宮迫それは世間的に通らないでと正直に言うようさとした」と当初から言明している。素人の私でさえ十何人が舞台狭しと演じている写真を見れば、これだけの芸人がノーギャラで出演するとすれば、この会社に一方ならぬ「義理」があるか、カラテカ入江にこれだけの芸人を従わせるだけの「力」がある、というような事情しか考えられない。「義理」はありそうにないしカラテカ入江にそれほどの「力」がないことも明らかだ。だとすれば、「ギャラは受け取っていない」という芸人の嘘は、吉本という総合エンタテーメント会社の海千山千の経営者、興業界の裏も表も知り尽くした吉本の上層部が見抜けないはずがない。にもかかわらず、「騙された」態を装って一旦芸人たちの「嘘」が通ったのにはそれはそれなりの「事情」が吉本サイドにあったのではないか?
 反社勢力から芸人がギャラを受け取っていたことが明るみに出れば芸人ばかりでなく会社も批判を受けるから会社が芸人に騙された、としておけば一時的にでも会社は非難を免れるからというのが最も分かりやすい方便だろう。しかしそうではない見方もできる。島田紳助が反社勢力とつながりがあった事件をキッカケに吉本が反社勢力撲滅の体制を構築したとされているが内情はまだ不十分なところがありそれを隠したいのではないか?という見方。特に今問題になっている反社のスポンサーとこれまでも何度か付き合いがあったらしいという噂もある。
 とにかくわれわれの知らない吉本が芸人たちの嘘に騙された方が都合のよい事情があったのではないか。このことをマスコミは是非糺すべきだ。「なぜ吉本ともあろう会社が芸人たちの嘘を見抜けなかったのか?」、これはどうしても明らかにして欲しい。問題の本質は案外このあたりに有りそうな気がしている。
 もしこれが明らかにされなければ、ノ岩暴力事件の際にモンゴル力士達と同席していた鳥取城北高校の相撲部監督の責任がいまだに明かされていないと同様の『闇』が今後も引き摺られていくにちがいない。
 
 さてこの問題の解決方法だが、これも簡単なことなのにマスコミやコメンテイター、識者の誰も発言しないが、「経営のプロを吉本の社長に据える」これしかない。一連の報道に接していて吉本という会社は資本金1億円、年間売上高700億円の大企業にもかかわらず、「製造部門」「営業部門」はあっても「経営部門」がまったく脆弱なことで、それは今回会見に立ち会った弁護士の質をみても明らかだ(お粗末過ぎた)。大崎会長という人は現在のエンターテイメント業界屈指の才能らしいが、それなら彼は今のまま会長に残しておけばいい。在京、材阪五社のテレビ局が株式の持合をしているらしいから彼らが吉本再建にふさわしい経営のプロを選任し代表権のある社長にしてガバナンスを確立する任に当たれば今の騒動は確実に解決されるであろう。
 
 SNS全盛になってSNSに振り回されて事の本質が解明されないまま感情的に問題が処理されがちな昨今であるが、こんな時こそ「マスコミ」と「知識人」の役割が問われる。知識人の奮起を望む。
 
 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿