2022年5月2日月曜日

フランスにできてなぜ日本でできない

  最近ツクズク思うのですが、マスコミが劣化したなぁ……、ほとんど役所や企業のプレスリリース(メディア向け資料)の垂れ流しではないかと。たとえば昨年の人口が64万人減少したという報道がそうです。15日総務省が発表した2021年10月1日現在の人口推計によると、総人口は64万4000人少ない1億2550万2000人で減少は11年連続、減少率0.51%は統計を取り始めた1950年以来最大となった、と報じています。以下労働の担い手となる「生産年齢人口」の減少、少子高齢化に歯止めがかからないなどとつづき、コロナの入国制限による外国人の流入が減った(2万8000人の純減)のも一因である、と結んでいます(日本経済新聞からの引用)。これは総務省のプレスリリースそのままか要領よくまとめただけのものでしょう。

 しかし一般市民はコロナで外出機会が減って出会いが急減したこと、濃厚接触を怖れてセックスを控えたことなどが大きく影響したのではないかと考えるのではないでしょうか。記者自身も多分そんな考えも少なからずあったはずですがプレスリリースにはそんな記載はなかった、記者会見でそんな疑問を役人にぶつける記者もいなかった、のでしょうか。

 

 毎日更新されるコロナの数字で際立っているのはアメリカの死者数です。100万人という死者数はウクライナ戦争の死者の何倍いや何十倍にもあたるのですからとんでもない数字です。人口比でみても0.3%に達していて先進国のうちで突出しています。アメリカに次いで多いのはイギリスの17万人、フランスて14万人ドイツ13万人ですからアメリカの異常さが際立っています。ちなみにわが国は2万9千人です。アメリカの事情はいろいろあるでしょうが健康保険がわが国のように国民皆保険でないから貧しい人は十分な医療が受けられないのも一因でしょうし格差が途方もなく大きいことも影響しているはずです。見方によれば「見捨てられた」人たちが多くいることになります。アメリカという国はヒドイ国なんだなあ、と毎日のように思っているのですがそんな論調の記事はどこにもありません。

 

 同じ人口に関する総務省の統計に「わが国における総人口の長期的推移」があります。これによると総人口が2050年には9千5百万人に2100年には6千4百万人になると推計されていて、これにもとづいて日本経済が衰退の一途をたどるという悲観的な識者の意見を掲載した新聞、雑誌そしてテレビのニュースショーも度々放送されてきました。しかし本当にそうなのでしょうか。

 2021年の人口をみるとドイツは8千4百万人、イギリスは6千8百万人、フランスは6千5百万人です。それでいてGDPはそれぞれ42億25百万ドル(1人当GDP5万8百ドル)、31億87百万ドル(4万72百ドル)、29億35百万ドル(4万48百ドル)になっています。わが国は49億37百万ドル(3万93百ドル)です。明らかにわが国の生産性が劣っているのです。イギリスもフランスもドイツもおおむね資本主義と民主主義の国ですから制度的にわが国と異なっているわけではありません。そうでありながらこんなに差があるのはわが国の経済・政治・社会システムが彼の国々より劣っているからと言わざるをえません。それが結果的に『失われた30年』となって今日があるのです。この問題点を点検して英米独仏並みに改良を加えれば人口が9千万人になろうと6千万人になろうとそれらの国と同じ程度の生産と所得を上げることができるはずです。国土の広さもドイツはほとんど同じですしイギリスは約6割、フランスは1.5倍ですから条件的に3国とそんなに差はないのです。問題は「システム」です。

 これについては4月18日のコラムで「各分野で競争がない」のが原因だと述べました。たとえば労働組合が強くなりすぎると企業の自由な活動の阻害要因になるとされてその弱体化が政治もからんで推し進められてきました。そして労働組合の組織率は10%台にまで低下し今や組合員数は1千万人に過ぎません。その結果給料が30年間ほとんど横ばいでGDPの大きな要素である「消費=購買力」が伸びず成長低下の原因になっているのです。ちなみに「賃金の決定要因」のうちで「労働組合と使用者の団体交渉」の影響が大きいと考えている割合は日本20%なのに対してフランス42%、デンマーク51%、アメリカでさえ29%――そして驚くべきことに中国が47%を占めているのですから日本の「労使関係」における競争力劣化は明らかです(リクルートワークス研究所資料より)。

 女性の能力が十分に活用されていないのもわが国の成長力を低下させている大きな原因でしょう。有名な「ジェンダーギャップ指数2021(世界経済フォーラム)」によればわが国は156ヶ国中〈0.656/120位〉で、〈ドイツ0.796/11位〉〈フランス0.784/16位〉〈イギリス0.775/23位〉に比べてまことにお粗末な限りです。

 企業税制の優遇策による「内部留保」の大幅増とゼロ金利による銀行と企業の競争関係弱体化も企業活動を低下させていることはまちがいありません。バブル崩壊前なら年間8%以上の利益を上げなければ銀行への返済が滞おりますから企業も必死に成長を図ったでしょう。しかし現在は〈1%~2%〉に過ぎませんから企業の緊張感が低下し成長力を引き下げてしまったのです。

 経済成長の根本は企業の「創造力ある活力」にあります。現在は「経営者資本主義」です。その経営者が政治に甘やかされ、労働者や女性、銀行の圧力から解放された「ぬるま湯」的環境にあったのでは経営責任に真正面から向き合う緊張感を喪失するのも当然の帰結です。

 

 わが国は戦後驚異の高度成長を遂げました。その「成功体験」から抜け出せずに「失われた30年」を過ごしてしまいました。「男女共同参画」であったり「男性の育休取得促進」であったり「政治分野における女性参画の拡大」など制度は取り繕われてきましたが実現は遅々として進んでいません。もしこのままの状態がつづくのであれば2050年2100年に『日本沈没』の可能性はゼロとは言えないでしょう。

 

 岸田さんのいう「新しい資本主義」がどんなものになるのか。

 フランスが、ドイツが、イギリスができていることが日本でできないはずがない、「日本をぶっ潰す!!」そんな気概で舵取りをして欲しい。切実なる願いです。

 

 

 

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