2022年5月30日月曜日

孫は何故かわいいか

 ――私の場合――

 わざわざ「私の場合」と断ったのは80才にして初孫を授かるという特異な条件があるからです。今どき早い人なら40才台で、大抵は60才台には経験していることを80才という人生も最晩年に至っての初体験ですから相当様子が異なるだろうと思うからです。そんな事情を言わせたのは次のような結論を得たからでもあります。

 なぜ孫は可愛いか?それは(1)孫だけでなく皆が愛しく思えるから(2)赤ちゃんが一番大変だということを知ったから、が私の結論です。

 

 40日間の滞在を終えて孫さまが無事ご帰還されました。まことに幸せな日々でした。「孫ロス」もありますがとりあえず「虚脱感」が全身を浸しています。疲れました!とにかく80才なのですから。78才の妻はほんとうに大変だっと思います。膝に孫を寝かせたまま背もたれに仰向いてうたた寝する白髪頭の妻に老いを見たとき愛しさがこみ上げてきました。こんな感情ははじめてでした。そんな妻に「Hクン、お母さんのことおかあさんと思たはるのと違うやろか」と娘が泣いて訴えたことがあったそうです。授乳後寝かしつけようといくらあやしても泣き止まない孫が「おばあちゃんとお散歩しましょうか」と抱きかかえて妻があやしながら歩いてやると暫くで寝付くということが何度かあって自信を失くした娘が思い余ったのでしょう。「なにいうてんの、Hチャンはあんたのことおかあさんと思たはるに決まってるやないの。Hチャン、あんただけが分かったはるの、他の人はまだ区別できてへんのよ」と諭したそうですがこれを「産後クライシス」というのでしょう。出産した女性が、激変してしまった生活に感じる現実的なしんどさにくわえて、ホルモンのバランスの崩れによる根源的&精神的な大不安、簡単にいうと全方位的に「まじ限界」という状況におかれること(川上未映子『きみは赤ちゃん』より)という状態に陥った娘が不憫でいとしくて……。あの子が人生のこんなところにまで成長してくれたのかと思うと本当に嬉しかった。そして人生の先輩として妻を認め頼る娘に、そして妻に、限りない「やさしさ」を感じたのです。

 妻や娘にやさしくなれなくて、孫だけを愛しく思うことなど可能でしょうか。考えてみると娘の生まれた当時の私はただただ赤ちゃんを育てなければならないという責任感ばかりで、ぎゃん泣きする赤ちゃんが早く首が座って健康な幼児に成長してくれることばかりを願っていました。赤ちゃんを「世話する対象」としか考えていませんでしたが赤ちゃん自身が成長しようと努力しているとは思いもしませんでした。

 赤ちゃんが『強制早産』で生まれてくることを知ったのは「人間観」の大転換でした。本来なら12~14ヶ月必要な生育期間を10ヶ月に短縮して早産で生まれるようになったのは人類が二足歩行になってスムースに早く歩くために(大きな獣の襲撃を避けるため)ガニ股から直行歩行が必要になりそれが骨盤と産道を狭くした、出産が困難になったので頭蓋骨と肩幅が成長し切る前に――10ヶ月に早産しなければならなくなって未熟児で生まれざるを得なくなったのです。勿論首は座っていませんし――首の骨がしっかり固定していたら狭い産道を通る時に骨が折れて死んでしまいます。聴覚以外は皆不完全で筋肉も骨も未成熟、内臓も成長途上です。だから赤ちゃんは生まれてから人類としての幼児の完成形に成長していかなければならないのです。授乳も下手ですし目もほとんど見えていません。膀胱は止水弁が完成していませんから満杯になれば溢れますし便は排出筋肉が不全ですから排泄が上手に出来ず便秘になりやすいのです。ミルクの嚥下機能と食道や胃腸が成長しますからゲップ、シャックリ、クシャミ、咳もしばしば発症します。

 赤ちゃんは自分で一生懸命成長しようと努力しているのです。母親は(おばあちゃんも父親も)赤ちゃんの手助けをしているのです。そんな赤ちゃんの姿を見ていると涙がこぼれそうになります。うーンと顔を真っ赤にしてキバッている赤ちゃんをみるとガンバレ、ガンバレと応援したくなります。こうした事情を知れば、育ててやっているという親の傲慢さは生まれようもないはずで育児書の第1ページには「強制早産」を記すべきです。育児の第一歩がここにあるということをまず知るべきなのです。

 そんなこんなで孫がたまらなく可愛いのです。娘が、妻が愛しいのです。

 

 泣く以外に伝達能力がありませんから「泣き声」は変化に富んでいます。空腹、排尿排便の不快、温度湿度の異常など。1ヶ月にもなると母親へ甘えることも多くなりますし、ほったらかしにされると「おーぃ」と呼ぶこともあるようです。室温には注意していても湿度管理は忘れがちですが、加湿器をつけて40~60%に保つようになってから夜泣きがピタリと止んで夜の寝つきも良くなりました。入眠直前にするぎゃん泣きは寝ることの危険性――未開時代の獣に襲われる危険性の意識がまだ残っているのでしょうか。授乳後などによくみられる「意味不明」の大泣きはひょっとしたら内臓の生長変化による違和感が影響しているかもしれません、成長期の子供が夜寝ているうちにも背が伸びて身体がキシることがあるように。

 

 孫は可愛いと目尻を下げていた友人たち。彼らの喜びがこの齢になってようやく知ることができました。そしてつくずく思うのです、こんなに幸せであっていいのかと。夫婦ともども健康に恵まれ毎日楽しみながら生活できて周りの人たちは親切に接してくれます。少しは世間のお役に立っているようですし喫茶店でご近所とも円満なつき合いができています。読書は快調ですし書く方も順調です。これから孫の成長を喜べる日がつづくとなると……もうどうしましょうか。

 

 初孫の 土筆めでたや おむつ換え――清英

 

 

 

 

 

 

 

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