2024年4月1日月曜日

人口減を乗り越える

  早いもので来週には孫が2才になります。保育園に入ったこの1年の成長は目ざましいものがあり、会うたびにジジ、ババを驚かす変化は生命の輝きそのものでいのちの不思議さを感じさせられました。可愛さが増すにつれて孫の将来が思いやられ不安と不憫さが募ってきます。今の日本を、世界をこのまま彼らに渡すことはできない。気候変動も格差も世界平和も、綻んだままでは彼らの未来に希望はありません。

 

 彼らの将来について今はっきりとしていることは、2060年に日本の人口が現在の1億2300万人から8700万人に減少しているということです。折りしもGDP(名目・ドル建)がドイツに抜かれて世界第4位に後退するという衝撃的な発表があって、このままいけばわが国経済は「失われた30年」に止まらず長期低迷に陥るのではないかという悲観的な見通しが強まっています。確かに人口ボーナス期と高度成長は期を一にしていましたから人口とGDPに相関関係があるのは否めません。

 一つの考え方は「一人当りGDP」を重視するという考え方です。2022年の世界ランキング(IMF)によれば1位ルクセンブルク(12.6万ドル)2位ノルウェー(10.5万ドル)3位アイルランド(10.3万ドル)4位スイス(9.3万ドル)でそれぞれ人口はルクセンブルク70万人ノルウェー550万人アイルランド510万人スイス880万人と人口小国です。そこまででなくてもドイツはGDP4兆7千億ドルで1人当り5.6万ドル(18位)になっていますから日本の4兆2800万ドル1人当り3.38万ドル(32位)とは1.6倍以上と豊かな数値を実現しています。そのドイツの人口は8330万人(2024年)ですから丁度2060年のわが国人口とほぼ同じです。ドイツは明治以来目標としてきた国ですし第2次世界大戦ではイタリアとともに枢軸国として戦い敗戦した関係ですからドイツにできたことがわが国にできないことはありません。

 

 その前に人口減少でなにが問題なのでしょうか。まず最初に心配されるのは社会保障制度が破綻するのではないかということです。さらに子どもの立場に立てば教育制度が悪化して上質な教育を受けられなくなるのではないかという心配です。わが国の社会保障は世界有数のレベルにあると思われていますし教育についても大学進学率が50%を超えていてニ三年後には大学全入時代が来ると言われています。この恵まれた状況がGDPの減少に伴って悪化するという心配です。

 そこで一つの判断基準として社会保障費と教育費のGDP比率が世界的にみてどのような状況にあるかを考えてみましょう。GDPが減少すれば社会保障費や教育費に回せる余裕が減少すると見るのが当然の考え方だからです。

 社会保障(給付)費(2019年OECD諸国)の対GDP比はフランス31.5%デンマーク30.8%フィンランド29.5%とつづいてドイツ28.2%アメリカ24.2%日本は23.1%でOECD中17位になっています。

 教育費(2022年度世界)は1位キリバス16.58%は突出していますが16位スウェーデン6.46%、22位南アフリカ6.18%、27位デンマーク5.93%、29位ブラジル5.77%、37位スイス5.81%、42位アメリカ5.44%、45位イギリス5.40%、45位韓国5.40%、75位ドイツ4.54%121位日本3.46%、125位中国3.30%となっています。

 こうした数字から浮かび上がってくるわが国の現状は世間に流布している「社会保障大国」では決してなく教育費に至っては世界の121位という恥ずかしい水準にとどまっているということです。ちなみに防衛費の対GDP比をみますと、わが国は2023年現在1.1%で世界平均の2.2%の半分であり、ウクライナ33.5%は別にしてもロシアの4.06%アメリカ3.45%英国2.2%に比べて相当少ないレベルに抑えられています(中国1.60%という数字は?です)。

 

 ドイツがこれからのわが国のあり方として検討に値する存在だとすれば、「江戸時代」は自国の歴史に学ぶ価値ある時代であったのではないでしょうか。人口は大体3000万人で推移した「定常社会」であったにもかかわらず生活水準は決して世界的に見て貧くはなく衛生状態と教育水準(識字率)はオールコック(『大君の都』)やルイス・フロイス(『日本史』)など幕末にわが国を訪れた外国人を驚嘆せしめたほどでした。その江戸時代に学ぶべきは徹底した「地方分権」とムダを排除した「循環社会」であったことです。地産地消で廃棄物を再利用する経済システムは今こそ再評価されるべきで掛け声ばかりの「地方分権」ではなく東京一極集中を一日も早く解消して過度の中央集権システムと訣別すべきです。

 

 2060年8700万人という数字は人口問題研究所の公的な発表で蓋然性の高い予測です。何も手を打たずにこのままいけばわが国の将来は暗然たるものになるのはまちがいありません。今のわが国の「形」は上述の数字で明らかなように「社会保障」も「教育」も世界の中で、先進国の中で相当劣った水準に止まった中流以下の国だということです。ということはそれ以外の分野に予算の多くを配分しているのが現在のわが国の形なのです。それは多分生産分野に偏った予算配分になっているのでしょう。敗戦の壊滅状態から復興し世界の先頭に躍り出る国策をとった戦後経済社会体制の必然で高度成長はその結果でした。しかしバブルがはじけて「失われた30年」を経過するなかでそうした「国のかたち」は終焉を迎えていたのです。役目を終えた予算や施策が大量に残っているはずでそれらを社会保障や教育分野に配分替えして、もし国民の同意が得られるのなら防衛費を世界水準の2%台に乗せることも可能です。国のかたちをそのままにして防衛予算を倍増しようとするから財政破綻を来すのであって、そのためには「新しい国のかたち」を国民に提示し同意を得ることが必要なのです。

 

 人口減少は決して決定的なダメージ要因ではありません。それを前提に国のかたちを変えれば今より豊かな国を造ることも可能なのです。ドイツでは大学卒業と同程度の収入と社会的地位が保証されたマイスター制度があります。子どもたちに「複線の進路」が用意されているのです。それだけでも子どもたちの才能は広く生かされるはずでその分国の成長力は高まります。

 

 人口減を国のかたちを変える好機ととらえる発想が今望まれます。

 

 

 

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